第65話 呪術師と癒やし


 ちまたでは物騒な事に“呪術師狩り”とやらが流行ってるらしい。


 お陰で街の雰囲気も宜しく無い。

 おイタをしてる輩を見かければ捕縛したりもしているが、それなら森の狩りと何ら変わらない。


 そうだ、森に行こう。

 癒やしを求めて森歩きの頻度が増える。


 実際、森で夜を過ごす方が金もかからず静かで過ごしやすい。

 世間じゃ危険だと言われてる魔の森に居る方が気楽だとは皮肉なもんだし、我ながら価値観が歪んでいる。


 それでも森の中だけで生活が完結する訳でもないので買い物や納品なんぞで街には定期的に顔を出してる。

 人が作る飯も楽しみだしな。



 街でしか入手出来ないのは道具の類いだ。

 特に刃物や調理器具の類いは無いと非常に難儀する。


 最初は小鍋の一つでもあれば充分と思っていたが、いざ使ってみると土鍋も欲しいしフライパンも欲しいと切りが無い。

 便利な道具があると知ってしまえば使いたくなるのは道理だ。

 

 そして一度便利に慣れると中々に手放せなくなる。

 切り分け様のナイフも肉用魚用野菜用と凝りたくなってくる。


 次点で調味料や野菜の類いも街ならではだ。

 厳密に言えば香草ハーブや野草などは森にもあるんだが、品質と品揃えは言わずもがなである。


 森での自給自足は可能だが、そもそも採取に時間がかかるし獣肉ジビエの解体に掛かる手間も少なくない。

 それを考えれば市場で買い込んで、ついつい保存食作りに勤しんでしまう。


 森では酢漬けの野菜が一つあるだけで全然違うのだ。

 野草が常に生えてくれている保証なんか無いからなぁ。


 俺の場合はキノコが何時でも入手出来るってだけで充分チートなんですけどね。

 感謝の気持ちを込めて、闇の世界に多めに魔力を流しておこう。



 そうやって市場や金物屋を流してると度々宜しく無い視線に晒される。

 どうにも獲物を物色してるのか探る様な視線だ。


 敵意や害意が薄いのが救いだが気持ちの良いものでも無い。

 視線が切れたタイミングで霞を纏って距離を取る。


 絡んで来ても面倒臭いが、型がつかないのも気分が良くない。

 スミスの店でも冷やかすか試射場で弓でも引いて落ち着こうかねぇ。



 ――――――――



 結局、両方とも熟して心の平安を取り戻した。

 スミスの店に寄った事で懐が軽くなり、闇の世界の秘密兵器が少し増えたがトータルではプラスと考えよう。


 あの店は、基本的に刀剣の類いは置いてないのにナイフは豊富に置いてあるんだよな。

 マインゴーシュやスティレットなら分かるんだけどソードブレイカーとか本気で使う奴なんて居るんだろうか……


 変態度で言えばツイストダガーまで置いてあった。

 刃が螺旋状になっていて突き刺した時のダメージがエグい。

 

 特殊な形状故に鍛造にしろ鋳造にしろ極めて高難度な製法を余儀なくされる変態武器だ。

 実際、コレの研ぎってどうやるんだ?


 ククリは実際に手に取ってみると意外に馴染んだ。

 逆反りの刃物ってどうかと思ったけども重量バランスも良くて振りやすい……こりゃ投擲も考えられたバランスだな。


 って言うか、ナイフ見るだけでも一日じゃ足りないとかどんだけですか……

 あ、ハルパーって知ってる?



 ――――――――



 一通り街での用事も片付き日も傾いて来た頃、今夜は街で過ごすか森で過ごすか考えながら歩いていると妙な視線に捕われる。

 ネットリとした獲物を物色する様な気持ちの悪い視線だ。


 いい加減に鬱陶しいので相手をしてやるかと人気ひとけの少ない通りに足を入れる。

 付いてくる気配と、急いで回り込む気配がする。


 立ち止まり出方を待つと後ろから2人、前から2人で包囲してくる。

 呼吸の合わせ方からして随分と手慣れたこった。


「人の尻に張り付くなんざ趣味が悪いな」


 取り敢えず警告を発する。

 どう見ても悪意や害意しか無いのは呪眼で見え見えだが口上くらいは聞いてやるかね。

 

 すると一人が前に出てくる。

 数の利に気が大きくなってるのか、下卑た笑みを湛えながら言い放つ。


「よう、お前は呪術師なんだろ?」


 得物をチラつかせながら得意げだ。

 だが冷静に考えれば呪術師だからって囲まれる道理は無い。


「だったらどうだって言うんだ?」

 

 もっともコイツ達に問答する気も無い様だ。

 ジリジリと距離を詰めてくる。



 ……しかし何故バレた?



 

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