第63話 呪術師と原始の魔法
日常に戻った。
森歩き時々街グルメ、場合により一時的によろず屋。
何とも平和な生活だ。
今日も市場を巡りながら食材を探す。
普段なら飲み屋や飯屋から情報を仕入れてアタリを付けた食材を探すんだが、
プロじゃないので目利きも適当だが売り文句を
最近じゃ黒い
人の口に戸は立てられないのか、或いは意図的に噂を流して領民に意識付けさせてるのか。
何にせよ呪詛返しを喰らった人間はお天道様の下を歩けなくなった様だ。
そんなこんなで世は太平、街行く人々は様々だ。
値引き交渉に精を出す男や野菜の良し悪しと財布の中身とを比べる女、仕入れの受取りに来た丁稚や菓子でも入った袋片手に走り回る子供……
雑多な感情が渦巻く街は苦手だったのだが、権謀術数渦巻く南街での長期に渡る施術を経験した今となっては……まぁ、多少は鍛えられたと考えていいのかな?
やはり基本は静かな方が好みだが雑踏を許せない程でもないってところだ。
例えばこう、今みたいに目の前を子供がてとてとと走ってるのを……あ、コケた。
半身を起こしてキョトンとしたら見る見るうちに涙が溜まり火が点いた様に泣き出す。
近くに保護者は居ないのか?
これじゃあ目の前にいる俺が何かやらかした事案に見えちまう。
「どうした?膝でも擦りむいたか?」
しゃがんで目線を低くして問い掛ける。
どうやら幼女の様だ。
急に話しかけられて驚いたのか真顔で俺の顔を見つめてくる。
間髪入れず、拾った菓子袋をパッと闇の世界から取り出すのを見せて気を引く。
「どうれ、おじさんがオマジナイを教えてしんぜよう」
菓子袋を渡しながら
「おまじゅない?」
「そうだよ、おじさんは魔法使いだからね。ほ〜ら“チチンプイプイ、イタイノイタイノトンデケ〜”」
少しオーバーアクションで膝小僧に
「一緒にやってごらん」
完全に興味を引かれた幼女が掌をグッパッとしながら声を合わせる。
「「チチンプイプイ、イタイノイタイノトンデケ〜♪」」
泣いたカラスがもう笑ってる。
キャッキャと飛び跳ねながらトンデケトンデケと連呼している。
「親御さんは居るのかい?」
「うん、あっち!」
「そうか、気を付けて行くんだぞ」
「うん!おいたん、ありがとー!」
再びてとてとと走り出す幼女。
手を振り見送るが、周りの大人から浴びせられる生暖かい視線に少々居心地がよろしくない。
誰とはなしに軽く会釈して早々に退散する。
三十六計なんとやらだ。
“痛いの飛んでけ”は呪術の
言霊に願いを込め動作に意味を持たせて儀式化する……正に原始の儀式魔法と言えるだろう。
実際に転んだ子供を泣き止ませる程度の効果は発揮されるのだからな。
願いを編み上げ言霊を祝詞に、動作を奉納する舞いの如き所作まで昇華させたものが儀式魔法であると魔導書は説いている。
回復魔法の代表格は神聖魔法を自認する法術と呼ばれる魔術である。
神への祈りを捧げて奇跡を起こす、とされている。
ところが回復魔法は法術の専売特許と言う訳でも無い。
効果は数段落ちるが属性魔術でも光・水・火属性の回復魔法は割りとポピュラーだし、高位の風属性にも存在すると言う。
何なら俺が使う闇術と併用した身体活性化だって広義では回復魔法と言えなくも無い。
他にも仙術や陰陽術にも回復魔法はあるらしいし、回復薬を作り出す錬金術の技だって神秘や奇跡の内だろう。
最近
厳格に神が定めたもうた法に則った感じがしないんだよね。
そもそも神様だって元々存在したって言うには色んな役割りに当て嵌められた神様が都合良くいる。
そう、神様にしろ魔法にしろ都合が良過ぎるんだよな。
そんな益体もない考え事も腹が減れば晩飯のメニューに置き換わってるんだから世話が無い。
市場では珍しくカニが出回ってた様だ、カニ料理は何処の店で食えるだろうか……
腹が減ったら神様よりもカニ玉なのだ。
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