第61話 呪術師と呪術的治療
騎士子からの依頼が完了した。
相変わらず希少植物の依頼が来ているが、長期に渡り呪物に晒されたから回復が遅れてるのだろうか。
終いにゃ満月茸まで依頼が出されていた。
一晩で枯れてしまう植物ってのは珍しいなりにも、そこそこ存在している。
だが満月の夜限定ってのは群を抜いて珍しい。
月の光ってのは古来から人にとって、狂わされたり心を奪われたりする存在で魔法的な力が備わってるのは間違いない。
その光を浴びて育つキノコは正に神秘の塊だろう。
採取しても特殊な保管器具が無いと朝日を待つ前に溶けて無くなってしまう儚さも持ち合わせている。
一瞬、食べたら美味いのか?とか思ったけど止めておくだけの理性はあった。
ストックしてあるキノコ類だけでも十分美味いのだ。
そんな採取と森歩きの日々を送っていると再び御指名が入った。
“指導を含めた希少植物採取協力”依頼なんだが、今度の依頼主は領主様ご本人だった。
おやっさん曰く「満月茸とか普通に納品出来る腕利きに白羽の矢が立ったんじゃろうな」との事。
マジか……
こういう事って良くあるのか?と聞いたら“無い事も無い”程度の話らしい。
知らなかったんだけど、そもそも
勿論、実務なんかは禄に熟してないんだろうけど政策的に重視している本気度が伺える。
更には「何を懸念してるか知らんが満月茸を鼻歌交じりで納める人材を使い潰す様なら、とっくに決別してる」とも謂われた。
金になって、ついでに人助けになるなら手を貸すのも吝かでは無いんだけどね。
ただチョット“南街”の空気が苦手なんです。
――――――――
少々お疲れなのか眉間の皺が深い。
話を聞くと伯爵様の容態が芳しく無いそうだ。
どうも呪物に晒され続けた結果、呪術が定着してしまったのではないかとの事。
そんな事あるんかねぇ?
何にしろ浄化しようとしたら急変して吐血したらしいから、もしかしたら何か憑いちゃったのかも知れない。
直接視てみない事には何とも言えないので寝室に凸。
視た瞬間の感想は“あちゃ〜”だった。
呪物に冒された呼吸器系では、無秩序に詰め込まれた術式未満の魔力の断片が複雑な術式に変質している。
良くないモノを詰め込んで寝かしといたら呪詛になりました、ってのは原始的な手法だが見事に巣食ってる。
憑かれて変質した細胞は強い浄化魔法を受けると傷ついてしまうだろう。
ましてや肺周りなんかはデリケートな場所だ。
強い薬品を使い続けたのも逆に
妙な変異もしてそうだ。
時間はかかるけど術式を一つずつ
……え?俺に出来ないかって?何言ってんの?
普通、高貴な方の治療にはそれなりに資格がいる。
当然だよね?治療と称して何されるか分からんのよ?もっとちゃんとした魔術師とか居ないんですか?
だが冷静に考えればちゃんとした魔術師が使う魔術だと強すぎてアウトなんだった。
色々なメンバーで
そこからは地味な作業の繰り返しだった。
フェタ婆さんには普通のポーションを用意して貰った。
効果が強過ぎる投薬は何が起こるか分からないからね。
適宜、必要な量を必要な場所に投与するしか無いんですよ。
良い事なんだか悪い事なんだか、呪術に深く侵された患部は呪眼で視透す事が出来た。
こんがらがった術式を
以前なら諦めざるを得なかった固く細かい術式も無形の闇で分解していく。
並行して、解いた術式と施術した患部を御祓いして行く。
朧だと見た目がアレなんで全て霞で施術する。
ポーションを喰わせた霞を鼻や口から入りこませて少量ずつ患部にお届けする。
端っこから少しずつ、根気よく。
何メートルもあるプチプチシートを一つずつ潰していくように……
正に長期戦だった。
休憩を挟み、日を跨ぎ、三日目くらいに漸く顔色が良くなって来た。
最後の術式を解いて祓った時には、七日目を迎えていた。
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