第60話 呪術師と魔術の存在


 直接的な原因である呪物は呆気なく破壊された。


 その後はお抱え魔術師に根掘り葉掘り聞かれて辟易へきえきした。

 特に呪術に関して凄く聞かれた。

 

 世間の悪いイメージが強過ぎて色々な誤解をされてるのだが、魔術師の間でも“なんとなくヤバくて胡散臭い魔術”程度の認識しかされてないのは悲しい現実だ。

 こちとら生粋の呪術師なので懇切丁寧に説明して差し上げた。


 “物理法則を超えた奇跡の総称”と認識されている魔法の体系化を進め、洗練された各種方法論が魔術なのである。

 特に再現性が重視され、様々な試行錯誤の末に確立された各種手法と言う側面が強い。


 その中でも呪術は原始的であり、一般的な魔術は洗練されてるが故に世に広まっている。

 自由度が高く低出力なのが呪術、自由度が低く高出力なのが一般的な魔術、そんな認識で間違いない。


 呪術では様々な感情を魔力にまで編み上げて望む形を実現させる。

 一般的な魔術では魔力の編み上げ方なんて1種類しか覚えない、それよりも編み上げた魔力を術式に落とし込み“早く”そして“安定した”魔法を再現する事に特化している。


 つまり一般的な魔術から見ると“ワケ分かんない手法で魔法使っててマジイミフ”となる。

 呪術側から見れば“一本調子だけど手際良くてスゲー”なんだけどね。


 “マジイミフ”で済んでりゃ良かったんだけど理解を得られない手法は悪いイメージとして広まってしまったのだ。

 “ワケ分かんない手法で色々出来てしまうのはズルくね?”とか言うも大きかったんだと思う。


 一般的な魔術は大抵一つの事に特化しており、研究や研鑽の末に辿り着いた技を“良く分からん手法で再現されては面目が立たん”と思いがちなんだろう。

 呪術師としては低出力の魔法を組み合わせたり色々と工夫して漸く実践レベルに至るのだが、その創意工夫が益々“ワケ分かんない”を加速させるのは悲しい事実だ。


 そして“ワケ分かんない魔術は大体呪術”ってレッテルが貼られてしまう。

 悪魔とか邪神とかの交信とか、生贄を捧げる儀式とか痛ましく忌むべき魔術も全部呪術だって認識されてしまったのだ。


 勿論、呪術にはそう言った側面もある。

 なんせ原始的な魔術なんで割りとカオスだし色々と節操がない。


 だが一般的な魔術にだって多かれ少なかれ邪悪な術ってのは存在している。

 大抵は高位魔術師達の間で禁術として秘匿されてるだけなのだ。


 簡単な実演を交えて説明を重ねると理解を得る事が出来た。

 魔術とは学問とも言えるので理性的な対話で理解を得られるのは理屈ではあるが、根底は感情の昇華だってのも真実なのでご理解頂けるのは単純に嬉しい。


 

 長々と対話した結果、解放されたのは随分と遅い時間だった。

 少々疲れたが実りある時間だったと言えよう。


 

 ……特に言及しなかったけど、一般的な魔術ってのも実は結構いい加減なのだ。

 例えば属性魔術、こいつは地水風火光闇の六系統に分類されている。


 これってカナ〜リいい加減な分け方なんですよね。

 地属性とか砂も粘土も石も鉱物も一緒くただし、水属性はH2Oエイチ・ツー・オーの三相だったり液体だったら大体OKな感じだし、風とか空気だし火に至ってはプラズマだ。


 分類してる概念がグッチャグチャなんですよ。

 では何故その様な分類をされたのか、答えは至極単純に“イメージしやすいから”なんですよ。


 厳密に分類するなら……そうね、“元素魔術”とか有れば凄く科学的で論理的な魔法体系が成立するんじゃないかな?

 理解するのに凄く難儀しそうだけどね。


 そんな訳で一般的な魔術も、よくよく考えてみると“ワケ分かんない”理屈で魔法を実現させてるってのは実は呪術と同じなんですよね。

 それでも魔法は存在している、存在する事が世界に認められているとも言える。



 魔法の存在を認める世界ファンタジーって素敵だと思います。



 

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