第59話 呪術師と呪物


 伯爵の病気の原因である呪物を特定した。


 これにて御役御免……とは流石にならなかった。

 取り敢えずくだんの壺を別室に隔離して解析するから立ち会って欲しいんだとさ。


 見るからに高そうな壺だが│躊躇ちゅうちょなく割られて、中から出て来たのはオドロオドロしいオーラを纏った壺だ。

 流石にこの状態になれば誰が見たってやくいのが分かり、お抱え魔術師も眉をひそめている。


 なんか探知系の魔術で色々調べてるけど、普通はそうやって調べるのか。

 イメージ的にはブラックライトを当てて浮かび上がる画像を読み解く、みたいな感じだ。


 決まり切ったフォーマットの術式なら素早く読み取れそうな感じだ。

 それと比べれば俺のやり方は随分と泥臭いと言うか原始的なんだよな。


 呪物が剥き出しになったから結構読みやすくなったけど、編み方のクセと言うか基本的な構造が黒鬼に埋め込められてた魔石と似てるんだよね。

 なんて言うか、お手本となった編み方を踏襲して無理矢理違う効果の呪術として成立させてる様な感じだ。


 十二分な知識が無くても流用できるパッケージ化された術式は、取り扱いはお手軽かも知れないが随分と非効率的な編み方だ。

 しかも全体的に、やたらと根性の捩じ曲がった風な編み方をしてる。


 しかし基本的な部分がスッカスカだから簡単に干渉出来そうなんだよな。

 例えるなら趣味の悪い外観してるハイスペックなCPU載せたセキュリティガバガバなコンピューターみたいなもんだ。


 しかしお抱え魔術師さんの解析魔術は光魔術の応用なのか、読みづらい場所を出力上げて照らしてるみたいだ。

 だが基本的に光魔術ってのは呪術に対して攻撃性が高いって言うか出力上げすぎると術式を壊しやすい……ってヤッチマッタナ。


 スッカスカだった基礎部分が焼き切れて術式が崩壊、術式として構成されてたの一部が弾けて飛んでいった。

 呪術的に繋がってるモノに呪詛返しとして飛んでいった筈だ。


「まさか光魔術に反応して自爆する様に組まれてるとは……犯人は一筋縄じゃ行かない様です」


 お抱え魔術師の言葉にズッコケそうになった。

 すげぇな、物は言いようだな……え?本気マジで言ってるの?


 感熱紙の文字を炎で照らして確かめる様な解析方法でしたよ?

 そんな感覚だと塩素系漂白剤に酸性洗剤を混ぜる様な真似をしかねませんよ?


 それとも高度なツッコミ待ちなのかと悩んでいたら御屋敷の何処からか悲鳴が聞こえてきた。

 タイミング的には呪詛返し喰らった奴の悲鳴なんだけど……そんな奴が入り込んでるの?流石に別件だよな?



 ――――――――



 現場の確認に呼ばれたお抱え魔術師に同行を請われて付いていく。

 ナンタラ子爵とか言う人に宛てがわれてた部屋で本人がピクピク痙攣しながら倒れてる。


 近くにはくだんの壺と良く似た壺が砕けて転がってる。

 倒れてる子爵の顔に焼き付いてる術式の断片は紛うことなき呪詛返しを喰らった痕跡だ。


 犯人だとしたら随分と底の浅い犯行なんだよなぁ。

 だが話を聞く限りでは、この子爵が犯人である可能性は低そうなのだ。


 何でも派閥の中でも伯爵のコメツキバッタとして有名で、忖度して騎士を魔の森深層に派遣させた張本人らしい。

 お見舞い品も、大枚はたいて霊験あらたかな壺を購入したんだとか。


 改めて子爵の傍にあった壺の術式を読み解いてみる。

 なるほど、一言でいうと充電器みたいな役割だ。


 二つでワンセットになってて子爵の壺に病気平癒を祈願すると魔力が吸い取られて伯爵の壺に転送される。

 転送された魔力を原動力として術式未満の厄物を聖属性のオーラと一緒に散布するって仕組みだ。


 原動力を別にする事で偽装効果を高めてるって訳か。

 やる事も作るモノも随分と捻くれてるねぇ。


 購入ルートから探れば犯人に行き着くだろうか?

 な〜んかその線も上手いこと偽装されてそうな感じがするけど、そこまで行くと俺は管轄外だな。


 取り敢えず直接的な原因は排除されたので御役御免でいいよね?

 呪物が無くても、ここの空気は俺には合わないからね。



 しかし高い壺買ってドツボに嵌まるとはねぇ。



 

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