第57話 呪術師と貴族の御屋敷


 騎士子シャリーの依頼を受ける事にした。


 表向きは狩人ハンターギルドを通しての指名依頼になるので手続き待ちだ。

 その間に細かい説明を受ける。


 ここフロンテアの街を含める魔の森に隣接する領地は治めるには土地だった。

 魔物跋扈する人外の土地なんかハズレ中のハズレだろう。


 そのハズレの土地を何とか開発して街にまで伸し上げたのが現領主の男爵だ。

 そして男爵が所属する派閥の重鎮である伯爵こそが渦中の“やんごとない御方”なのだ。


 男爵にとって恩人らしく、また伯爵も男爵への信頼が厚く療養の地として身を寄せているそうだ。

 何より特殊な“足の早い薬”の提供が受けられると言う理由が大きいらしい。



 そんな訳で狩人ハンターギルドで指名依頼を受注してシャリーの案内でやって来たのは貴族街、通称“南街みなみまち”だ。

 北部が“街北まちきた”なら“街南まちみなみ”じゃないのか?とも思うのだが、そう言う呼び習わしらしい。


 やって来て早速後悔し始めている。

 最近は慣れてきたと思っていたのだが、感情のウネリが気持ち悪い。


 何と言うか上流階級独特と言えばいいのだろうか、何とも言えない感情が渦巻いている。

 もう既に帰りたくなっているが我慢しよう……何かあったら即行ケツまくっていいかな?


 くだんの伯爵が療養してる御屋敷に着くと話は通ってた様で割りとスンナリと通された。

 それでも警備は厳重で、門番なんて街の出入り口以外で初めて見たわ。


 そして案内された部屋にはフェタ婆さんがいらっしゃった。

 どうやら錬金ギルドの重鎮は専属薬師の補助として御屋敷に詰めているらしい。


「シャリーのってのは案の定アンタかい」


 相変わらずの強い視線ジト目で御座います。

 クセになったら責任とってくれるのかな?


 フェタ婆さんの話によると高価な薬をバンバン投与してるらしい。

 投与してしばらくは良好なんだけど、暫くすると悪化するの繰り返しらしい。


 道理で冒険者ギルドでも狩人ハンターギルドでも希少植物採取の依頼が後を絶たない筈だ。

 俺もそのあずかった一人だ。


 効果の強い薬は投与にそれなりのインターバルが必要なので考え無しに使ってる訳では無いのだが、それでも許容できるギリギリで回してるらしい。

 そのうち体力の方が持たなくなるんじゃないかと危惧しているそうだ。


 医師と薬師の共通見解としては原因不明。

 伯爵も元々が体力のある方で今まで大きな病にかかった事も無い、薬も効果は確認出来ているので対処療法としては間違った事をしている訳でも無い。


 なのに暫くすると再発する。

 適当な事を言わずに正直に“原因不明”と無責任と取られても仕方が無い診断結果を出している両者は逆に信用出来ると言うのがフェタ婆さんの見立て。


 投薬の補助として伯爵の寝室に同行した時に確認したが婆さんの“錬菌術師”としての視点から見ても怪しい点は無かったそうだ。

 医師と薬師、そして“錬菌術師”によって物理的に環境や症状が整えられているなら後は高位回復魔術師がババーンと強力な回復魔法でも使えば後顧の憂い無く治せるんだけどなぁ。


 何でも派閥内の派閥争いとやらがあるらしく高位回復魔術師の予定が押さえられてるらしい。

 対立派閥からの後押しもあって中々に複雑な状況らしい。


 派閥内の派閥とか言うパワーワード。

 闇術を扱う俺から見ても闇深くて貴族社会恐ろしいわ。


 状況を一通り把握した頃、新たに魔術師が入室してきた。

 男爵お抱えの属性魔術師らしい。


 黒鬼に埋め込まれてた魔石は当然の如く領主の元へと渡り、この人が解析してるらしい。

 つまり忙しくて有能な人だ。


 医師も薬師も八方塞がりな状況で、畑違いとは言え魔術師的見解を求められて参上したとの事。

 俺は、その助手的なポジションで捩じ込まれたらしい。


 属性魔術師は俺に対して非常に興味深げな眼差しを浴びせる。

 が、今は伯爵の件が優先なので寝室に向かう事になった。


 後で根掘り葉掘り聞かれそうダナー。

 呪眼で視るまでもなく“興味津々”って感情がダダ漏れだもんなぁ。


 そして辿り着いた伯爵の寝室には、ちょっと普通じゃない感情が渦巻いていた……



 こいつはやくいぜ。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る