第56話 呪術師と依頼


 騎士子シャリーが何やらお願いに来た。


 以前聞いた、やんごとない御方の治療に協力して欲しいんだと。

 当然、直接的な治療では無く希少植物の採取とかの間接的な協力だろう。


 俺の付け焼き刃的な応急処置なんかよりも本職の治癒師や薬師の方が知識も技術も高いし、なんなら高位回復魔術の使い手だって手配してる筈だ。

 ただ“病気”ってのは怪我と違って少々たちが悪い。


 病気治療キュアディジーズと言う魔術は存在するが、術師がどんな病気を治したいのか具体的にイメージ出来ないと効果が薄いのだ。

 勿論、魔力ガン積みの力技で無理矢理回復させちまう高位魔術もあるにはあるが使い手は非常に限られる。


 一般的な治癒魔法だと“病んでる部位”の特定と“治したい症状”の両方を把握して、初めて十全な効果が発揮される。

 それでも外科手術もせずに様々な治療が出来るってだけでも十分“奇跡”なんだけどな。


 そんな訳で植物プラントハンターでもある俺が協力出来るのは、精々魔の森深層に生息する希少植物採取くらいしか無い筈だ。

 それならギルドを通して指名依頼なりするべきなので直接頭下げて依頼する様なもんじゃない。


「他でもないリオン殿のとしての力を貸して頂きたいのです」


 OH!……確かにそれなら狩人ハンターギルドを通してする依頼じゃないなぁ。

 けど御貴族様なら高位魔術師様とか、いくらでもツテとか召集とか出来るもんじゃないの?


「今は、とある理由で高位魔術師を呼ぶ事が出来ないのです……黒いブラックオーガに仕込まれた呪物を見抜いた御慧眼と御見識をお借りしたいのです」


 なるほど、かなり切羽詰まった状況なのね。

 いくら狩人ハンターギルド員とは言え素性も知れない俺みたいな人間の手も借りようだなんて相当なんだろうな。


「勿論、正規の依頼として狩人ハンターギルドを通じて指名依頼させて頂きます。但し“指導を含めた希少植物採取協力”としてです。万が一でもリオン殿に迷惑がかかりそうな状況になりましたら、その時点で“依頼者側の契約違反”による即時依頼破棄が可能です」


 なるほどねぇ……こりゃ誰かにしっかり入れ知恵されたか、それとも貴族様の裏技なんだろうねぇ。

 最初ハナっから“契約違反”してる訳だから何時でも降りる事が出来ますよって事だ。


 万が一マズい事になってもソイツを楯に俺の立場はギルドによって守られるって寸法だ。

 しかも“指導を含めた”って依頼なら講師として御屋敷に呼ばれても不自然では無い、と……よく考えられてますなぁ。


 条件は悪くない、むしろ何かウラがあるんじゃないかと勘繰るくらいだ。

 だがもしもたかが俺一人をハメようとする意図があったとしても態々わざわざこんな手の込んだ真似をする理由もメリットも無いだろう。


 貴族様絡みのトラブルで人身御供とするには俺程度じゃ貫目が不足どころか無意味なレベルだし、狩人ハンターギルドの紐付きなら余計な面倒事が増えるだけだ。

 次点で人身御供に巻き込まれるって事も考えられるが……ギルドの紐付きの人間を巻き込むってのは極力避けるだろう。


 唯一メリットがあると考えられるのが“意図的に狩人ハンターギルドに喧嘩を売りたい”場合だけど……それこそ無いだろうなぁ。

 要は何らかのはかりごとをもって場を制御したい者にとって、俺は重要人物では無いのに下手に排除すると後々祟る地雷みたいな存在になるって訳だ。


 騎士子くらいの立場なら責任取らされて人身御供にされるシチュってのはありそうだよな……

 むしろ入れ知恵した奴は紐付きの俺を騎士子のそばに置くことで牽制する狙いか?


 考え過ぎのきらいはあるが何がたたるか分からんからな。

 どっちにしろ直接俺が矢面に立つシーンは思い浮かばない。 


 それにどうせ大した事は出来ないし求められもしないだろう。

 八方手を尽くしたって事実だけでもメンツが立つってもんだろう。


 よござんしょう、猫の手も借りたいのなら貸してしんぜようではないか。

 下手に首を突っ込みすぎて好奇心に殺されニャい様にだけは気を付けますか。


 しばし悩んだ末に結局そう言う考えに落ち着いた。

 何せ呪眼に映る騎士子の感情にやましさの欠片も無いからな。

 

 

 酢飯を作ってくれってお願いなら二つ返事だったのにな。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る