第54話 呪術師と他愛の無い日々


 騎士子シャリー舎利しゃりにハマった様だ。


 気に入った様で何より。

 鱒寿司ますずしお酢さえあれば割と簡単に作れるから、俺も今度自作してみようかな。


 デザートが終わると軽いツマミが出て来た。

 寝酒ナイトキャップで締めるも良し、飲み続けるのも良し、と言った塩梅だ。


 当然の如く飲み続ける。

 ここいらから会話がメインとなってくる。


 騎士子が改めて礼を言ってきた。

 俺に命を救われた繋がりでヤスと意気投合していた。


 そんなヤスは最近は弓を学び始めたみたいだ。

 ジョバンニ曰く腕前は可もなく不可もなくと言った具合らしい。


 何でも凛と弓を引くのが格好良いらしい。

 それで意中の受付嬢のハートでも射抜きたいのか?とツッコんだら「何故バレた」と驚いていた。


 非常に分かりやすい。

 年長組も生暖かい視線を浴びせていた。


 ツッコみついでに俺もツッコまれた。

 フェタ婆さんにポーションの瓶を酒瓶代わりにするのは感心しないと釘を刺されたのだ……どうやら「ライスポーション」遊びがバレてたらしい。


 手頃で丈夫な瓶だったんだけどなぁ。

 けど本格的な増産をするなら四合瓶か一升瓶になるから忠告は素直に受け入れよう。


 一升瓶とかあるのだろうか?

 四合瓶ならワインの空き瓶がそれくらいのサイズで普通にあるんだよね。


 不思議な事に洋の東西を問わず酒に関する容器のサイズって似たものが多い。

 四合瓶と一般的なワインボトルは、ほぼ同量だし何なら蒸留酒スピリッツやリキュールなんも大体このサイズだ。


 スキットルは一合徳利とっくりと同量なものが主流だし、ショットグラスはお猪口ちょこと変わらない。

 人の使う道具なんて突き詰めていけば似たり寄ったりになって来るものなんだろうな。


 ちなみに騎士子が探していた希少植物は冒険者ギルドに依頼して、高位冒険者が無事に採取して来たそうだ。

 直ぐに錬金ギルドに持ち込まれ製薬されたので事無きを得たらしい。


 忖度そんたくして勇み足な指示を出して騎士を死なせた貴族様は顰蹙を買ってるらしい。

 亡くなった騎士達は、その貴族様に仕えていて騎士子はフロンテア領主に仕えているんだそうな。


 一言で言えば勇み足の指示に道案内で駆り出されて死にかけた、と言う何ともご愁傷様な話だ。

 冒険者ギルドでも深層の異変調査に赴いたパーティが黒いオーガを確認しているそうだ。


 死人こそ出ていないが話題になっており高位冒険者の間では“黒鬼殺し”が、ちょっとしたステータスになっているそうだ。

 なんとも血気盛んな話だ、あんなモン態々わざわざ戦いたいとは思わんけどな。


 他にも他愛の無い話で盛り上がったりして、その夜はお開きになった。



 ――――――――



 森歩きの生活に戻った。

 黒鬼に探知された経験を活かし隠形術に更なる磨きをかけた。


 深層を彷徨うろつく冒険者もたまに見かける様になった。

 黒鬼狩りの御一行だろう、それで黒鬼が減ってくれるなら大歓迎だ。


 それと関係してるのか冒険者ギルドでは深層での希少植物採取の依頼が増えてるらしい。

 狩人ハンターギルドにも依頼が流れて来てて俺も何度か納品した。


 ちょっとしたボーナスになって懐が暖かい。

 スミスの変態武器で散財したくなってしまう。


 一応、自重して厳選した上で購入の検討をしてはいるのだが気付けば買っているのだ。

 “よろず屋スミス”恐ろしい店!


 まぁ、備えあれば憂いなしとも言うので無駄な出費では無いと自分に言い聞かせている。

 ……鎖鎌とか何時使うんだよ。


 発酵食品作りも軌道に乗って安定した品質を保てる様になって来た。

 最近のマイブームはぬか漬けと、なれ寿司だ。


 ぬか漬けだけで日本酒が進んでしまうので封印を検討するくらいにはハマっている。

 なれ寿司は鱒寿司ますずし作りを通り越して辿り着いてしまった境地で、複雑なしょっぱ美味さで日本酒が進む……封印案件か?


 いっそのこと“黒鬼殺し”と銘打った日本酒とセットで売りに出してしまおうか。

 空前絶後の日本酒ブームを巻き起こしてやんよ!



 そんな割りと平和な日常を送っていたのだが、目の前には深々と頭を下げた騎士子がいる。

 面倒事の予感だねぇ。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る