第52話 呪術師と人気店


 無事に街まで戻って来る事が出来た。


 黒鬼に関しては何やらキナ臭い物証まで見つけてしまった。

 放置しても良い事なんか一つも無いし、俺のトコで止めといても百害しかないのでギルドに丸投げだ。


 黒鬼を狂わせていた呪詛はキッチリ返したので、仕組んでた術者は相応のダメージをくらってる筈だ。

 因果応報、人を呪わば穴二つってヤツだ。


 それはそうと女騎士様に奢ってもらう事になった。

 “下町で”って条件を付けたら店を知らないと言うので、こちらで指定させて貰った。


 少々お高い店だが騎士様相手なら問題あるまい。

 逆に下手に安い店だと何を言われるか分からなくなるもんなぁ。


 ま、お高い言っても庶民感覚の範疇に収まるレベルだし、出て来るものと比べればむしろ安いくらいまである。

 つまりコスパ最強な店なのだ。


 そして少し変わったサービスも提供してくれる店でもある。

 あらかじめ食材を持ち込んでおくと、それを使って調理してくれるのだ。


 食材モノによっては熟成や下処理が必要になってくるので要相談だが簡単な食材モノならその場で調理してくれるのだ。

 そして店主のお眼鏡に適う食材だと一定量の売却を打診される。


 斯く言う俺も味噌と醤油、それに最近の新作である米酢を売却してる。

 一定量と言っても多くて5日くらいで捌ける量で、通常メニューとは別に期間限定メニューとして提供される。


 常連の間では店主に認められる食材を持ち込むのは一種のステータスになってたりする。

 ちょっとしたお遊びって奴だ。


 あくまでもお遊びなので空気を読まない奴は御遠慮願っている。

 クッソ忙しい時に持ち込んで直ぐに作れとかおっしゃる輩や、材料持ち込みなんだから割引けとか抜かす輩は御遠慮頂いている。


 元々が良心的な値段で提供してくれてるのだ。

 むしろ技術料を考えれば安いくらいなのに物の価値が分からない輩は一定層いる。


 多少お高くても、お値段以上に美味けりゃ知る人ぞ知る名店だ。

 ここ一番で気張ったお食事をしたい大事な場として地元民に愛されている。


 つまりは街の北部……地元民は“街北まちきた”と呼ぶ地域の“ちょっと特別な店”として認知されていて、各種ギルドの上役さんや衛兵隊長さんとか街北の顔利きさんに高位冒険者なんかが常連として名を連ねている。

 胃袋を掴まれた連中は聖地を乱される事を許さない、が過ぎる客モドキは流石に袋叩きフクロにゃされないがしてからじゃないと出直す事すら許されない。


 何を隠そう俺がチーズ探求の旅に導いたのは、この店だ……そりゃ通うよ。

 通い詰めてチーズの産地を知る頃には立派な胃袋掴まれ組常連だ。

 

 その頃には不文律のルールとやらも理解出来て貢ぎ物的に手持ちの発酵食品を納めていた。

 発酵食品作りに関してはチートのお陰もあり試行錯誤の末に一歩先んじてる自負はあるものの、食材として調理する段では当然の如くプロには遠く及ばない。


 ベーコンなんてカリッカリに焼き揚げるのが正義ジャスティスだと思っていたが、柔らかく焼き揚げたベーコンを使った絶品のカルボナーラを頂いたら白旗を挙げざるを得ない。

 気合を入れ直した味噌・醤油作りにも虎の子の塩花を投入したので次回の遠征計画も前倒しになったくらいだ。


 そんな店なので予約を入れたとしても混むときは混む。

 テーブル単位での予約ならともかく単純に“二人”の予約なら相席もむ無し……そう言う雰囲気を求めるなら“カップル向けのテーブル席”で予約するのが鉄則だ。


 当然、甘〜い雰囲気を求めていた訳でもないので相席上等な“お二人様ご予約席”は何の因果か相席に相席が重なった。

 俺、騎士子、スミス、フェタ、ジョバンニ、ヤス……


 どうせ知り合いなんだろ?的な意図が透けて見える。

 少なくとも騎士子に関しては色んな意味で説明責任が発生する事だろう。


 唯一の救いは騎士子嬢がフリフリのドレスでは無くピシッとした騎士服で来てくれた……着てくれた?事だろう。

 興味深げな視線が俺に集まるのは誠に遺憾だ。



 そうしてフロンテアの夜は深まるのであった。



 

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