呪術師治療中

第47話 呪術師と手術


 魔の森の深層で怪我人を見つけた。


 端的に言うと死にかけている。

 単純にドバドバとポーションを投薬しても、内臓までイッてたらショック症状を起こしてしまいそうな重傷だ。


 最低限の応急処置だけ施した。

 具体的には止血して睡眠スリープ痛み止めペインキラーを掛けた。


 痛みを堪らえようとして力んだりして今以上に出血したら手に負えない。

 昏睡してる様な意識レベルなら、こんな風に全身麻酔っぽく使える様になったのだ。


 起きてる様な状態だと、まず抵抗レジストされちゃうからね。

 脳への鈍化スローも抵抗されやすいけど、その比じゃないくらい抵抗レジストされる。


 そして完全に意識を失ってる状態なら闇の世界に仕舞えちゃうんですよね。

 悪用したら誘拐犯まっしぐらなので使用上の注意が必要だね。

 ついでに他の死体も回収しとくかな。


 血の匂いに誘われるもの達と遭遇しない様に安全そうな所まで移動する。

 移動しながら闇の世界に魔力を充満させておく。


 魔力に反応してマッシュが出て来る。

 いつも助かってるが今回は特にお前の力が必要だ、頼むぜ相棒。


 休憩場所として目星を付けていた場所で闇を展開させる。

 一人用テントより多少広いくらい、緊急の手術室とするのだ。

 

 重症患者を闇の世界から出して横たえる。

 キレイな顔してんな……はいはいイケメンイケメン。

 

 普段は特製ハンモックなのだが精密な作業が予想されるので揺れる寝床は使えない。

 せめて毛布は敷くから我慢しとくれよ。


 程よく患者の全身に闇の魔力が馴染んでいる。

 しかし見た目だけ、と言うか表層だけで体内までは浸透してない。


 患部に闇の魔力を浸透させてゆく。

 意識が無いのにビクリと全身が震える。


 自分以外の魔力が体内に入り込んでいるのだから当然の反応だ。

 全身表層に馴染んだ闇の魔力で無理矢理押さえつける。


 闇による物理干渉は非常に難しい。

 たが闇の魔力に馴染んだ物体なら現実的なレベルで干渉が可能だ。


 例えば俺自身の体内なら魔力が循環してるから容易だ。

 だからこそ砕けた骨を正しい位置に戻したり出来たのだ……それでも動かしてる最中はモヌゴスイ違和感は拭えないけどな。


 それを他人の身体に無理矢理、闇の魔力を流して物理干渉しようとしてるのだ。

 荒業中の荒業だ。


 重傷で生命力が落ちてる相手でも、かなりの抵抗を受ける。

 頼む……受け入れてくれないと俺は何にも出来ないんだよ。


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 少しずつ侵食した魔力が患部に届いた。


 闇を見透す呪眼は闇の魔力に浸された患部を視る事が可能だ。

 侵食への抵抗のせいかと出血している。


 出血部位を闇の手で塞ぐ……最早、闇は手の形をしていない。

 本来、形のない闇は自在に形状を変化させて最適な形で血管の破損部位を押さえていく。


 砕けた骨を集めた時なんかは闇の手の指で一つ一つ摘んでたんだぞ?

 随分進化したもんだよな。


 闇に喰らわせた治癒ヒーリングポーションを破損部位に必要量だけ吐き出させる。

 止血が確認できた部位から生命ライフポーションを同様に塗布していく。


 流石に毛細血管みたいな細かい部分は対応しきれない。

 視認できる血管は圧がかかる血管と圧が抜ける血管を見極めながら、自分の体内と見比べて復元していく。


 内臓の一部まで達していた傷も慎重に復元していく。

 砕けた骨の整復どころではない精密作業だ。


 細かい作業は遅々として進まないが適当な処置するくらいなら放置した方がマシだ。

 手を出した以上は全力を尽くす。


 マッシュは菌を統制してくれている。

 本来なら無菌室みたいな環境がいいのだろうが無理な話だ。

 

 それに居てくれた方が良い菌もいるのだ。

 最低限、化膿しない様にしてくれるだけでも全然違う。


 気の遠くなる様な時間が経過し、概ね峠は越した頃には随分と広範囲に魔力が侵食していた。

 違和感を覚えて確認すると俺には無い内臓が存在する……子宮だ。


 まさかの女性でしたか……患部周辺の鎧も弾け飛んでたから脱がしもせずに施術おっ始めたからなぁ。

 けど、まぁやるこた変わらん。


 皮膚の修復が終わる頃には夜が明けていた……何時間やってたんだ?

 何とも色気の無い朝チュンだ。


 一応、他に重傷部位が無い事は確認してある。

 相当な負担が掛かった筈なので安静に寝かせてやるか……特製のハンモックに移して睡眠スリープ付与の闇を纏わせる。


 マッシュにも魔力を注いでねぎらう。

 サポートが無ければ、とてもでは無いが高度な医療行為モドキなんて出来なかっただろう。


 俺も闇を纏い適当に横になる。

 酒を口に含んでプーッてやる消毒とか、ちょっとだけやってみたかったかも知れない。


 

 そんな益体もない事を考えながら眠りに就いた。



 

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