第46話 呪術師と森の奥


 魔の森深層を彷徨うろつける様になった。


 しかし彷徨うろついてみて分かったが、深層は広い。

 そして思ったよりも閑散としている。


 冷静に考えてみれば強い魔物がひしめいていたらたちまち溢れ出して来てしまうだろう。

 勿論もっと奥に行けば、そんな魔境になっている可能性も否めないが……


 もしかしたら深層と呼ばれる地域こそ本来の魔の森なのかも知れない。

 だとしたら、もっと物騒な連中が奥に控えてるんだろうか。


 今でもトロールやオーガと言ったタフな魔物を始めとして殺意高い系の昆虫や機動力の高い野生動物とか非常に剣呑な生態系を見せてくれてるのだ。

 それ以上となると……幻獣とか?


 定番だとキメラとかグリフォン辺りになるんかねぇ……出たって話は聞かないが居ないって保証は無いからなぁ。

 仮に出て来られても戦うとなったら大変だろうな。

 

 今でもトロールとかタフ過ぎて相手にしてらんない。

 身体はデカいしパワーもあるけど小回りが利かないし頭も悪いから撒くのは簡単なのが救いだ。


 オーガは割と倒せる。

 アイツ達は御多分に洩れず攻撃に感情を乗せすぎるのでカウンターを合わせやすい、ハイオークよりタフかな?くらいの感覚。


 但し色が付いてくると話は変わってくる。

 レッドオーガは力が強くブルーオーガはスピードタイプで凶暴性も一段上だ。


 倒せない事も無いが、極力御遠慮したい。

 個体数が少ないのが救いかな?


 昆虫シリーズは普通に戦ったらヤバい。

 独特の無機質な感情が察知しやすいから遠くから観察して弱点を分析するって手順を踏まないと危険が危ない相手だ……毒とか平気で持ってるからね。


 そして野生動物は狩るメリットが殆ど無い。

 高位の魔物相手に平気でヤり合う高い身体能力を支える筋肉は筋張ってて固い、つまり食えるようにするのに非常に手間がかかる。


 手間暇かけて柔らかくしても美味さは普通だ。

 獣肉ジビエとして色んな意味で鹿や猪に劣る、勝ってるのは取れる肉の量と珍しさくらいだ。


 そんな訳で深層に来るメリットって結局、希少植物の採取に落ち着いちゃうのよね。

 戦闘民族タイプの冒険者も態々わざわざ深層まで来ない。

 そう言う人種は漏れなく迷宮ダンジョンに潜って戦いの日々を送ってるらしい。



 だから深層で戦った痕跡ってのは結構珍しい。

 

 倒された魔物や野生動物の屍を見つけたが明らかに刀剣による致命傷だ。

 傷跡を見るに戦闘力は高いのだろう。

 恐らく少数精鋭、無駄に大人数で森に入り込んで捕食者達を呼び寄せない様にしたのだろう。


 だが危うさも感じる……交戦頻度が高いのだ。

 隠密行動が苦手なのは深層では特に命取りだ。


 人の尻を追い回す趣味は無いが、何がわざわいして、こちらに降り掛かってくるか分からない。

 確認できる異常は把握しておきたい。


 痕跡を追跡して行くと揃いの鎧を着けた連中が倒れていた。

 色付きのオーガも倒れている……相討ちか?


 呪眼に映る感情はフラット。

 つまり死んでるか気を失っているかの二択だ。


 多分身体強化を使ってたのだろう、魔力の残滓漂う中ではパッと見では判断がつかないので一人ずつあらためる。

 ……一人だけ生きていたが重体だ。


 鎧の脇腹部分が弾き飛ばされてザックリと切り裂かれてる。

 随分な深手だ、内臓までイッてたらポーションを使っても五分五分……いや、もっと分の悪い勝負になるだろう。


 回復ポーションには何種類かあるが、今有効なのは2種類だ。

 治癒ヒーリングポーションと生命ライフポーションだ。


 治癒ヒーリングポーションは傷口を塞ぎ、生命ライフポーションは生命活動を活性化させる。

 他にも魔力マナポーションや体力スタミナポーション等も存在するが今は割愛する。


 だがポーションは万能では無い。

 治癒ヒーリングポーションには整復効果が低くて組織の癒着等が著しく、生命ライフポーションは文字通り生命力を高めるが今回の様な場合は血行が良くなり負傷部位の出血を促す弊害がある。


 つまりバランスの良い処方をしなければ十全な回復効果は望めない、それは錬金術師の分野だ。

 勿論、中には霊薬エリクサーと呼ばれる様な超高級ポーションなら後遺症を気にせずに容易く回復する奇跡を起こせるのだが目ン玉が飛び出るどころか飛び出た目ン玉と更に内臓の何個かセットにして売っても足りないくらいの金額が必要になってくる。


 取り敢えず止血効果が望める程度の治癒ヒーリングポーションを負傷部位に注ぐ。

 だけどこのままだと確実に死んじゃうだろうな。


 根本的に傷が深く、失った血液の量も多い。

 かと言って生命ライフポーションを投薬しても塞いだ血管から溢れ出して本末転倒だ。



 どうしたもんだろうかねぇ。



 

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