第40話 呪術師と来訪者


 なんやかんやあって“魂の呪術書”が“魂の魔導書”にパワーアップした。


 つまり俺のチートの根源である“書”が編纂された、と言い換えても良い。

 それに伴い、俺の呪術の編み上げ方も編纂された。


 呪術と闇術を別々なモノとして編み上げるのでは無く、混じり合った一つの術として編み上げるのだ。

 最初は複雑で煩雑さを感じたが、最終的には速く編み上がりアレンジもしやすいのが分かった。


 ただ何も知らずに土台も無しにやれと言われても途方に暮れていただろう。

 今迄やってきた基本があってこそ基本を崩せる……敢えて言語化するとしたら、そんな感覚だ。


 例えば今迄なら“闇の腕の先に新たに追う闇を展開して放つ”事は可能ではあった。

 それを“編み上げた闇の腕の先端を切り離して追う闇に変化させて放つ”なんて事も可能になったのだ。


 しかも込める呪術の書き換えも自在だ。

 痛みペインとして編み上げた術を途中から魔力喰らいマナドレインに変化させたり、或いは両立させたりなんて真似も出来るのだ。


 まぁ、ザックリと「色々出来る様になった」って話だ。


 魔力の質も変わった為、魔力による強化もスムーズになった。

 お陰で今迄は使いこなせなかった鋭敏化クイックも、身体強化に織り込む事で自然に発動・維持が出来る様になったのだ。


 思考が速くなる為、自分の動作を含め知覚する全てが遅く感じる。

 死を覚悟した時の走馬灯を見てる様な感覚だ。


 その感覚は当初、もどかしさを感じた。

 しかし、ゆっくりと丁寧に身体を動かすイメージで己と向かい合うと“無駄な動きを省いて最終的に速く動ける”事に気付いてからは随分と馴染んだ。


 全ての事が感覚的なところから変わってしまったのだ。

 使いこなすには長い修練が必要となるだろう。



 ――――――――



「お前さんに客が来とるぞ」

 

 リハビリがてら色々と試しながら魔の森の浅い所と狩人ハンターギルドの往復の日々。

 そんな中で、おやっさんに声を掛けられた。


「客商売はしてないんですけどね」


 どうにも思い当たる節が無い。

 おやっさんは視線で試射場に促す。


 足を運ぶと見るからに冒険者っぽい男が弓を練習してる狩人ハンター達を眺めている。

 随分と熱心に見学してる様だが……俺の客?


「どなたかお探しですかい?」


 取り敢えず声を掛けてみる。

 振り返った若い男は俺を見るなり背筋をピンッと伸ばし深く頭を下げた。


「アニキ!先日は本っ当にありやとざいした!」


 ……俺に弟がいた記憶も無いしソッチの趣味もない。

 当然、義弟や舎弟も持った記憶も無いんだけどな。


「……ハイオークに追っかけられてた奴か?」


 正直、思い当たるのはそれくらいだ。


「ヘイ!おかげさまで命拾いしやした!」


 どうやら正解の様だ。


 ヤスと名乗った若い男はE級冒険者らしく普段は浅層で稼いでいるらしい。

 あの日はパーティー狩り中にハイオークに襲われ散り散りに逃げたところ、3匹も引き受ける事になってしまったらしい。

 

 冒険者ギルドに戻り、助けた俺を探したが見つからなかった。

 当然だ、俺は冒険者じゃないからな。


 弓と槍を使ってたからと思い狩人ハンターギルドを訪ねて来たって話だ。

 わざわざ訪ねてくるなんて生真面目きまじめな奴だ。


 実を言うと、この街の冒険者と狩人ハンターはイマイチ仲が良くないのだ。

 ギルドの組織レベルでは相互協力の意思疎通が取れている筈なのだが、問題は人間だ。


 冒険者にしてみれば安全な巡回を執拗に繰り返して領主から金を引っ張ってる面白くない連中、しかも戦い方一つ取っても遠くから射掛けるだけの腰抜け共と映るらしい。

 一方で狩人ハンターから見れば長い年月を掛けて造り上げた安全な街を足掛かりに一攫千金を夢見てやって来た山師連中、しかも狩り方から何から行動が雑で環境を省みないゴロツキ共と映るらしい。


 俺に言わせりゃ拗らせて無頼を気取ってる冒険者、プライドが少々お高いところがある狩人ハンターって感じだけどな。

 余所者にゃ、にわかに分からない確執があるんだろうな。


 そんな訳で冒険者が狩人ハンターギルドまで足を運ぶってのは、ちょっと無い事なんだ。

 命の恩人への礼に仲間の一人も付いて来ない理由も言わずもがなである。


 そんな訳で、礼を尽くして足を運んで来た若人を無下にするのも忍びない。

 かと言って浅層でしか稼げない若人から礼として金品を受け取るのも何だかモニョる。



 結局、一杯奢らせる事で納得させた。



 

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