呪術師修行中

第38話 呪術師と新たな武器


 どうにかこうにか街に帰って来れた。


 今回の遠征を振り返ると、この世界で生き延びるには俺はまだまだ弱いって事を思い知らされた。

 降り掛かる全ての理不尽を跳ね返す様な強さを求める程おごっちゃいない、が逃げ出しても何してでも生き残るだけの知恵と手段だけは確保すべきだ。


 ちょっと弓の引き方や槍の捌き方を覚えた程度で、それらをメインに据えて考えてたのが甘いのだ。

 俺は呪術師であり、本質を忘れては本末転倒だ。


 生き延びる上で呪術だと火力に不足を感じたから槍を取り、距離のアドバンテージに不安を感じたから弓を取ったのだ。

 飽くまで呪術をメインで考える、呪術こそ知恵と手段の宝庫なのだ。


 当然、戦う力は必要だし常に備えるべきだ。

 だが、その上で戦いを回避する手段を用意する事も同じくらい重要だ。


 まず見直すのは周辺の察知能力だ。

 相手よりも早く遠くから察知できれば遭遇自体を回避出来るのは理屈だ。


 呪眼の察知能力は優秀だが、距離に問題がある。

 感情や魔力の感知をベースにしてる為に強い負の感情や多数の感情が交錯されると途端に精度が落ちる。


 例えるなら、感情や魔力を音に見立てたソナーの様なものだ。

 拾い上げる感情や魔力を選別して精度を上げるか、或いはアクティブソナーの様に魔力波をぶつけて反応を炙り出すか……折角の隠密性を捨てる事になってしまうのが問題点だな、要検討だ。


 次に遭遇したとしても逃げる方法を確立したい。

 ……何らかの手段を用いて逃げおおせる事を呪的逃走と言う、呪術師である俺なら差し詰め呪術的逃走だな。


 幾つかのアイデアは既に思いついている。

 後は煮詰めて練習あるのみだ。



 ――――――――



「なんと言うか、そいつは災難だったのう……」


 ひん曲がった突貫槍を手に取りながらスミスのオッサンが不憫そうに言ってくる。

 丈夫な芯材が曲がってるのをと見ている。


 俺は次の武器えものとして鎌槍ウィングドスピアをチョイスした。

 案の定、片鎌槍は一点物で注文しても納期がかかるからだ。


 ウィングドスピアは片鎌槍より少し長いくらい、全長2メートル超の短槍だ。

 穂先の根元に刺し止めが生えていて、そこから手元の方へ小さな羽根の様な枝刃が短く伸びている。


 片鎌槍の枝刃の様に引いて撫で切るのでは無く、引っ掛けて切り裂く様な使い方になりそうだ。

 全体的なバランスはクセが無く、やや幅広の穂先は突いて良し薙いで良しと使い勝手は良さそうだ。


「そいつを選んだか……刺し止めの付いた槍は別名“猪槍ボア・スピア”とも言ってな、大猪狩りの英雄には丁度良かろうて」


 悪い笑顔で揶揄からかってきた。

 だが既に手に馴染み始めたウィングドスピアを手放す気にもなれない。


「この羽根ウィングがあっても飛ぶのは二度と御免だよ」


 肩を竦めながら言い放つ。

 ついでに目ぼしい武器が無いか探してみよう。


 今迄なら静音性を重視して選択肢に上げてなかったが、鎖を使った武器も見てみよう。

 単純に振り回すだけでも遠心力の生み出す破壊力は馬鹿にならないし、脚に絡めれば逃げられたかも知れない。


 そう思い鎖分銅を手に取ると三叉みつまたになっている……これ、微塵みじんと呼ばれる忍具じゃないか。

 投げ物としては絡んで動きを封じ、振り回せば先端の分銅が骨をも微塵に砕くと言われている。

 

 本当に何処から仕入れて来るんだろうか。

 よくよく見れば鈎手甲、苦無、手裏剣、鏢刀、撒き菱、煙玉、寸鉄、万力鎖、鉄拳……オッサンにはニンジャの血でも流れてるのか?


「そう言えば、お前さんは闇魔術師だったよな。こんなのは読めるのか?」


 そう言って声を掛けてきたオッサンの手には一冊の本。

 渡されて見てみると……こいつは魔導書だ。


「生憎と古代文字で書かれていてな。翻訳のメモが付いてるんだが、最初の1ページ分しか無い。メモによると闇魔術の書らしい。闇魔術は人気が無いからな、わざわざ翻訳するなら他の系統を優先した様で二束三文で流れてきたんだが……いるか?」


 確かに闇魔術は人気が無い、ベースになる闇術を他の系統と同じ様な体系化をしてしまった事による弊害だ。

 例えば追う闇を単純な攻撃魔法として洗練させても、弾速は遅く攻撃力も上がらない。


 闇術は呪術を乗せたり改編したり出来る柔軟性が強みなのだ。

 それを四角四面に攻撃、防御、回復、補助と言った代表的な分類に当て嵌めたって上手く機能しないのは当然だ。


 何故その様な雑な体系化が進んだのかは魔術の黒歴史とも言える。

 単純に他の属性だと大体上手く行った洗練の手法が闇術には通用しないまま世に広がってしまった、とだけ理解しておけば問題ない。



 それにしても古の忘れ去られた闇魔術の書とは、面白そうじゃないか。



 

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