第37話 呪術師と傷心の帰還


 滝壺のほとりで治療に専念した。


 三日で動ける様になったが万全には程遠い。

 動いても悪化しない程度まで回復したと言うのが正しいだろう。


 全身を魔力で活性化させて健常な部位から生命喰らいライフドレインで吸い取った生命力を負傷部位に分け与えるとか言う壮大なマッチポンプ的な術も開発してしまった。

 効果は本当に雀の涙、やらないよりかはナンボかマシ?くらいの暇潰しだ。


 ぶっ倒れてた河原の近くにはドレイン出来そうな生命体とか居なかったからなぁ。

 やはり生命力溢れる巨木からお裾分けして貰うに限る、寄らば大樹ってな……違うか。


 投擲練習用の杖に掴まりつつ、左足を引き摺りながら移動を開始する。

 今回は失った物が多い、何とか回収した巨大猪がそれなりの値が付いてくれないと厳しいんだよな。


 突貫槍は丈夫な芯材から歪んでるから修理はきかないだろう。

 片鎌槍もクピンガも行方不明だ……いずれも結構いいお値段したんだよなぁ。



 移動開始より三日、道々巨木からチューチュー吸わせて貰い完治まで漕ぎ着けた。

 街はもう目の前だ。


「た、助けてくれ〜っ!」


 森に響く救援を求める声。

 気配を探ると追う魔物と逃げ惑うヒトの様だ。


 森で逃げるなら声を上げるより撒く事に専念した方がいいぞ?

 街中とは違うからな。


 もっとも野生の捕食者から森で逃げ切るのは容易では無い。

 相手が魔物でも話はそうも変わらないのだが、呪眼で察するに魔物の感情に愉悦が色濃く出ている……遊んでやがるな。


 逃亡者の進路もこちらに向かっている。

 と言うか街へ逃げ込む逃走経路なら自然と合流するよな。


 案の定、俺の前に逃亡者がまろび出て来た。

 どうやら冒険者らしい、視線が合うと助けを求めてくる。


「た、助け…」


 言い切る前に弓を番え、放つ。

 襲いかからんとしていたハイオークの喉元を射貫いた。


 残る魔物は2体、いずれもハイオークだ。

 こんな浅層に?


 1体は弓で仕留め、距離を詰めてきた1体はジャベリンで屠る。

 全長1.5メートルのジャベリンは手槍としても十全に機能する。


 けど、まぁサブウェポンだな。

 片鎌槍の長さが身に染み付いてしまってる。


 ……嗚呼、片鎌槍、アイ・ミス・ユー。


 想い出に浸ってると冒険者が何か言ってきてる。

 獲物?いらねーよ、文字通り横槍入れたけど横取りするつもりは無いから頑張れよ。


 それでも何か言ってきたけどハイオークの魔石の買取価格を思い出させてやったら視線が俺とハイオークの躯を忙しく往復する。

 近くに他の魔物の気配もしないから剥ぎ取るなら今だぞ、と促してやるとおずおずと捌き始めた。


 それを横目にさっさと帰る。

 森の異常を潰す事で僅かながらも居付きの狩人ハンターへ貢献する……俺がした事は只それだけの事だ。



 ――――――――



 狩人ハンターギルドでは既に森の異常を察知していた。

 俺も浅層にハイオークが出張っていた事、そして中層の外れも外れの川沿いにアーマードボアの出没を報告した。


 納品したアーマードボアは、ちょっとした騒ぎになった。

 深層まで出向く狩人ハンターは少なく、冒険者は主に魔物を狩る。


 3メーターに及ぶ巨体はそれだけで圧巻だ。

 ……戦ってる時は、もっと大きく感じたんだけどな。


 生き物は命を失うと途端に小さく見える。

 イキモノからモノになるってのは、多分そう言う事なんだろう。


 そんなこんなで結構な値が付いた。 

 肉質はともかく量が取れる事と、奇しくも一撃で仕留めた事で大きな一枚皮が取れる事が買取り査定に響いた様だ。


 巫山戯ふざけて俺の事を“一撃”とか呼んで冷やかす奴まで出て来る始末だ。

 勘弁してくれ、狙って出来る事でも無いし頼まれたって二度とやりたく無い。


 忘れかけていたが塩花と糖蜜樹の実も納品した。

 いずれも量は少ない。


 学術的評価とやらで査定に時間が掛かるそうだが結構な値が付いてくれそうだ。

 頼むぜ、今回は失った武装が多いんだ。


 

 スミスの武器は変態武器、一点物が多い。

 再び買い揃えるなら特注になる可能性が非常に高いんだ。



 

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