第33話 呪術師とキノコの夜


 老ファンガスとの邂逅で、菌術がパワーアップしたのを知った。


 しっかり釘も刺されたけれど、俺には譲れない野望があるのだ。

 その為にはパワーアップした菌術を使い倒す事も厭わない……


 そう、味噌と醤油だ。


 既に存在してるのは確かだし、俺が自作したとしても因果に大きな影響を与えるとも思えない。

 多分、致死率の高い病原菌とか作ったりしたら㌧でもない事になるんだろうな。


 代償を考えたら、とてもじゃないが手を出す気にはなれない。

 菌術は健康と豊かな食生活の為に振るわれるに限る。




 1週間かけて魔の森を抜けると懐かしのスポーンエリアだ。

 今となってはゴブリンとの五分五分の死闘も懐かしい。


 お世話になった竹林で竹を補充、竹ってのはあると色々と便利なのだ。

 タケノコは見つからなかった、異世界でも時季ものだったらしい。


 糖蜜樹の実も採取しておいた。

 糖度が高過ぎて腐敗する余地が無いので、実が落ちない限りは多分一年中採れるんじゃないかな。


 そしてお待ちかねの塩湖に向かうでは塩花が咲き誇っていた。

 

 まぁ、枯れるものでもないから半ば確信はしていたんだけどね。

 唯一の懸念は野生動物の塩分補給として消費し尽くされてしまう事だけだった。


 こんだけ旨味もある塩なんだから無くなってても不思議ではなかったんだけどな。

 もしかしたら動物には体質的に合わないのかも知れない、猫にタマネギみたいな感じ?


 何にしろ御祓いクリーンを掛けつつ竹筒に詰めていく、何気に竹の香りが移って使い出が良いのだ。

 干し肉とか作る時にも結構使うし味噌と醤油を作るにも必要だ……味噌や醤油に使うのは勿体無いかな?



 第一目標であった塩の採取は完了した。

 ここからは時間をかけて上流へ移動していく。


 魔の森での一般的な野営は魔除けの茨に寄り添う形で行われる。

 そして魔の森でも魔除けの茨が植えられてない場所を1週間もかけて抜ける物好きなんて居ない。

 つまり俺のスポーンしたエリアは、人の手が入ってない秘境と言っても過言では無いのだ。


 よく探せば希少植物なんかが生息、あわよくば群生しているかも知れない。

 現に塩花が群生していたからね。


 ただ遠隔地だから枯らさずに持ち帰るのは難易度が高い。

 塩花様に植木鉢を準備しているけど実験の色合いが強い、帰る時に採取する予定だ。


 よくラノベで時間停止のアイテムボックスとか出てくるけど正直謎だ。

 確か物体は光の速度に近付けば時間の進みは遅くなるんだっけ?

 

 僅か数百グラムの物体が光の速さで射出されるだけで地球や宇宙がヤバいって話を聞く限り、個人の魔力とかで賄えるエネルギー量の枠を越えちゃってると思うんだよなぁ。

 その光に影響を与える重力を生み出すのだって、たった1Gを生み出すのに地球1個分の質量が必要なんだろ?

 

 俺の呪術で再現しようとしたら代償がどれだけ必要なの?

 天文学的過ぎて想像もつかん。



 そんな呪術的考察をしながら植物採取をしてたんだけど、そう都合良く希少植物は無かった。

 普通に品質の良さそうな薬草とかはあったんだけど適切な保管器具とか無いと持って帰るだけで枯れてしまう。


 結局、採取できたのは乾燥させても大丈夫な香草ハーブとか茶葉くらいが関の山だった。

 うん、自家消費で終わる質と量だわ。


 茶葉の発酵とかも奥が深いから勉強か実験の必要性を感じる。

 宿題ばっかり増えてる気がするなぁ。



 数日かけて川沿いを遡ると開けた場所に出た。

 月明かりに照らされた草原が広がり、無数のフェアリーサークルがあった。


 気付けばマイコニドが飛び出して楽しそうにクルクルとサークルの周りを走り回っている。

 すると光の粒が舞い上がり、その中から妖精フェアリーがポツリポツリと現れた。


 フェアリーサークルに妖精フェアリーが現れるなんて流石の異世界ファンタジーだ。

 見惚れているとマイコニドが物欲しそうな雰囲気で俺を見上げている……魔力が欲しいのかな?


 魔力を流してやると気持ち良さそうに身体を震わせているが、しばらくすると我に返り“そうじゃない”的なジェスチャーをしてくる。

 フェアリーサークルを指してピョンピョン跳ねてるから、そっちに魔力を流せばいいのかな?


 よかろう、我が魔力を堪能するがよい!

 追う闇をサークルに向けて放つ、込めるのは闇の残滓でサークル周辺に闇となった魔力が漂う感じで振りまく。


 見えてるサークルに次々と追う闇を放ち続ける。

 すると魔力に反応してサークルから種類違いのマイコニド達が姿を現した。


 大きさも種類もマチマチだが、総じて大体手の平サイズに収まる程度のキノコ達がワチャワチャしている。

 久しぶりに会う親戚みたいなものなんだろうか。


 

 そんなキノコと妖精フェアリーの盆踊りめいたダンスパーティーは月が沈むまで続いていた。



 

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