第31話 呪術師と運命の出会い


 オッサンと昼酒を楽しんだ。


 昼から飲むのは何とも言えぬ罪悪感じみた感覚に襲われるが、まぁたまにはよかろうだ。

 自家製とも良い相性だった。


 酔ったついでにキワモノ武器も何点か見てきた。


 全長3メートルオーバー、刃渡りだけでも実に60センチオーバー大身槍おおみやりだ。

 何がキワモノかと言うと中程に柄から垂直に把手とってが付いて、全体像で立てて見ると左右に短い十文字になっている。

 当然、本来の“十文字槍”とは全くの別物だ。


「コイツは儂のオリジナルでな、“突貫槍とっかんやり”と名付けた。馬上で使う突撃槍ランスとは違う、歩兵の武器だ。中央にある補助柄を握り込み、しっかりと体重を乗せて突ききるのが主たる使い方だ。長槍の例に漏れず石突を地面に刺して対騎兵として構えられもするが、普通にしごくには持ち手の位置に工夫が必要になるな」


 何とも使い勝手の限定されそうな浪漫武器だ。


「普段使いには大仰だな」


 だが、それがいい。


「まず携行に問題がある。血に濡れても確実に突き込む戦場の武器、或いは大物狙いの一点突破に使うくらいかの。文字通り尖り過ぎた長物ちょうぶつよ」


 確かに持ち運ぶにしても振り回すにしても、個人運用するのにギリギリのサイズ感だ。

 たが、ただ大きいってだけで謎の信頼感と言うか説得力が出てくるから不思議だ。


 他にも槍なら薙刀グレイブ斧槍ハルバード鎌槍ウィングドスピアの類いがあったけど至って常識の範疇に収まるだろう。

 強いて言うならば使い捨ての投げ槍ピルムがあったくらいかな?長い穂先が刺さると曲がる、主に戦場で相手の盾の無力化を狙う武器だ。


 と、油断してたらありましたよ、キワモノが。

 柄がしなる白蝋槍、柄が蛇腹になってる“龍節槍”、とてもじゃないが使いこなせる自信など無い。

 って言うか“龍節槍”、オマエのジャンルは鞭じゃないのか?

 

 矢羽と紐が付いた短い槍も見つけたが、大型の“打根”と言う投げ矢らしい。


 うん、俺は片鎌槍とジャベリンで充分だよ。


 そう言えば斧が欲しかったんだ。

 藪漕ぎ用にマチェーテは買ったんだけど薪割りとかに斧は欲しいんだよね。

 確か小型の手斧ハチェットは見かけたから置いてる筈だ。



 そして武器コーナーに置いてあった斧は変態揃いだった。


 まずは斧剣、サーベルの様な剣の鍔の部分がゴッツい斧になっている。

 重量があるから鍔迫り合いにも強く、重さの勢いで振れば剣の部分でも良く斬れると。

 重心が手元だから見た目ほど扱い難くはない、ですか。

 見た目ほどって事は、それなりに扱い難いって事っすよね?


 次、なんだコレは?

 形状としては大きな鉤状のカナテコの内側に身幅の長い刃が付いてる感じ、シルエット的には鉈に近い。

 何々?カナテコ部分の重量に任せて振れば刃の部分で割り裂ける……なんてバイオレンスな武器ですか。

 心なしか処刑剣エクスキューショナーソードにも見えてきたぞ。


 そして最後が邪悪なスリケンめいた形状してます。

 確かクピンガとかフンガムンガとか呼ばれる投げナイフだ。

 ナイフって言っても複数の枝刃が独特の形状で不揃いに生えていて斧みたいな大きさになっている。


 しかも意外とバランスも良く投げると良く飛び、良く刺さるんだとか……

 正直、色々言いたい事がある。

 まず持ち歩くのに鞘とかどうすんの?

 投げて強いのはいいけど万が一投げ返されたらどうすんのよ、こんなん飛んできたら普通に泣くぞ?



 そんな風に変態武器品評会をしてたら客が来た。


 そうだよな、“店”だもんな。

 武器マニア秘密倶楽部と錯覚してたよ。


 御来店されたのは目力の強い年季の入った御婦人だった。

 正確には客ではなく、錬金ギルドの重鎮でポーションの納品に来たんだとか。

 その割には手ぶらだねぇと思ったらマジックバックでの納品でした。


 少々居心地が悪い、実は錬金術師には少しだけ苦手意識があるのだ。

 と言うか呪術師は錬金術師に嫌われてる歴史がある。

 我が魂の呪術書よ、解説頼む。



 📖<ゴブサタシテマス!

 

 錬金術


 魔術の一形態であり、物質を変換する事に特化している。

 そのアプローチは他に類を見ない程に理詰めで、学術的な法則を重視する。

 中でも等価交換を最重視しており、代償と対価に関する考察は非常に厳格であり科学の発展への貢献も著しい。


 呪術の不特定に対する祈りや請願は、支払う代償に対して得られる奇跡の大小が大きくブレる。

 その為に錬金術の観点からは呪術は“当てにならない”とか“非常にいい加減”な魔術と認識されている。


 要は頭の固い錬金術には呪術のファジーさが理解し難いって事っすわ。

 

 📕<モットデバンガホシイゼ



 呪術師だってバレなきゃいいだけの話なんだけどね。

 って、目力の強い年季の入った御婦人目つきの悪い婆さんがライスポーションの空き瓶を訝しげに見てますよ……そして、なんでコッチ睨むん?


 結局、何事も無く納品済ませて帰っていきました。

 一体何のフラグだったんだろう?



 まさかのヒロイン候補!?


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