第30話 呪術師とポーション
単純に森と街との往復なので特筆する事も無いのだが、やってる事は命のやり取りなので緊張感が薄れるのは危ない。
特に飯や寝床の心配をしなくてよい街の暮らしは勘を鈍らせる恐れもあるんじゃあないか、とも危惧している。
一度、長期的に森に籠もる事も考えてみよう。
それはさておき街の楽しみは何も酒や飯だけでは無い。
よろず屋スミスでは行く度に面白い商品が見つかる。
手に取って戦術に組み込む検討をしてみたりアレコレ説明を聞いたりで時間切れになり、結局全てを見て回る事は未だ叶ってない。
恐ろしい店だ。
だが俺だってヤられてばかりでは無い所をお見せしよう。
最早行きつけと言ってもいいスミスの店に入ると相変わらずオッサンは何か作業をしている。
挨拶もそこそこにカウンターの上にポーションの瓶を置く。
「コイツは何だ?」
訝しげに聞いてくるオッサン。
「ライスポーションだ、キくぜ?」
気取ったポーズでドヤる。
「
確かにどこの誰が作ったのか分からんシロモノなど本気で取り扱おうとするなら、いちいち鑑定費用が上乗せされるだろうし何より色々と面倒が生じるだろう。
俺だって価格も品質も安定して流通する錬金ギルド製のポーションがあるなら余程の事が無い限り出所不明のポーションになんぞ手を出さない。
が、コイツは一味違う。
「
益々訝しげに謎のポーションを見つめるオッサン。
「一体何に効くんだ?」
光に透かしたり矯めつ眇めつしながら聞いてくる。
聞かれちゃいましたよ。
「……百薬の長、だ」
タップリと溜めてからドヤ顔で返す。
「おめぇ、そりゃあ……」
「まぁ、クイッと
俺に促されて開栓すると小皿を取り出し少量注ぎ、まずは匂いを確かめ一口含む。
流石のオッサン、飲み方を分かってるぅ♪
「コイツは……米、か?結構キくなぁ」
そう、俺は菌術の研鑽の末に日本酒の開発に成功したのだ。
米が普通に売っていたのは幸いだった。
ついでに言うと味噌と醤油も売っていたけど希少品で禄に出回ってない。
「ちいと待ってな」
そう言い残すと、オッサンは裏に引っ込んでしまった。
それにしても酒造りは難易度が高かった。
まず米を磨いて蒸す。
でんぷんから糖分への糖化、そして糖分からアルコールへの発酵という過程を同時進行させるのだ。
出来上がった酒は白濁しており、まるでどぶろくの様な濁り酒だ。
そこに御祓いすると不純物が沈殿して、美しく透き通った清酒となる。
ここまで辿り着くのに試行錯誤を繰り返したが、本来なら酒母造り、もろみ造り、そして適切な段階を踏んだ各種仕込みと繊細で複雑な工程が必要となる。
それらを材料の加工と祈りだけで完成まで漕ぎ着けられるのだから、菌術とは紛う事なき魔術と言える。
もしかしたら、そう言った意味で秘術として門外不出の禁術扱いされたのかも知れない。
この調子で味噌と醤油も欲しい。
こちらも目下、鋭意開発中なのである……どうしても酒への渇望で後回しになってしまったのは秘密だ。
そう言った意味でも秘術だぁね。
「コイツで試してみよう」
菌術の可能性に思いを馳せていたら、オッサンは何か持ってきた……ってお
しかもお猪口は2つ、分かってるねぃ♪
お猪口を目線の高さに上げて乾杯のご挨拶。
驚いた事にお猪口を覗き込むと蛇の目の柄が入っている。
蛇の目は酒の透明度を視る為らしいが、“蛇の目が何重にも見えたら酔っ払ってる目安”説を個人的には推したい。
「辛口でキレがいいな」
蛇の目を睨みながらオッサンが感想を漏らす。
「甘口も悪かないけど個人的に好みなんでね。これは
軽く説明しながらとばを出してあげる。
魚のジャーキーだ。
目を輝かせたオッサンが驚愕の事実を告げる。
「確か道具があった筈だ、
そんな道具まであるのか。
よろず屋スミス、恐ろしい店だ。
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