第27話 呪術師と恐怖のキンジュツ
なんとなく弓の扱い方が分かってきた気がする。
的を見据え立ち位置を決める。
そしたら呼吸を整えて姿勢を正す、姿勢が何より大切だと教えられた。
弓を構え矢をつがえる、弓を引くには膂力は必要だが腕の力で引くのでは無く胸や背中の力で引くのだそうだ。
姿勢が正しくないと胸や背中の力を使えないらしい。
正直よく分からないが両肩がシッカリと腰に乗ってる様な感覚の時には、力を入れずともスッと弓が引けるから多分それが正しい姿勢なんだろう。
照準器を通して的を眺める、ここで凝視してしまうとどうにも射線がブレやすい。
呼吸を止める、呼吸を止めても動き続ける心臓の音に合わせてタイミングを計る。
眺めてる景色の中で自分がパズルのピースの様に、あるいは時計の中にピッタリと嵌る歯車の様に何かと繋がった感覚を覚えた瞬間に矢を放つ。
これが出来た時が100メートル先の的を射抜ける時だ。
中々に再現が難しい。
出来ない時でも当たる時は当たるのだが、出来た時は必ず当たる。
60までならちゃんと立てれば当たるんだけどなぁ……奥が深いですよ。
でも100を当てるだけなら確実な裏技がある。
まず3日以上闇の世界に仕舞った矢を準備する、闇の魔力に晒され続けた矢は実によく馴染む。
そして矢に闇を纏わせ芯に魔力を通す、乗せる呪術は追う闇だ。
本来なら歩く速度で敵を追い詰める呪術だが、矢に込める事で僅かながら補正してくれる。
その僅かな補正が大きい、60を外さない精度で射れば100を外さない。
多分、
何にしろ元々の土台が必要だから素で100を射る練習は続けるけどね、楽しいし。
ただ1つだけ問題が出てきた。
当てられる距離が長くなる毎に矢の回収に時間がかかる様になってしまった……その分、一射一射を大事にする様になったんだけどさ。
集中して練習する期間を設けたのは大正解だったと思う。
弓矢も槍も随分と手に馴染んで来た気がする。
だが何時までもこんな生活を続けてはいられない、稼がねば。
おやっさんとオッサンに明日から森に通う旨を伝えて食料やらを買い込んだ。
買い物も一段落して適当な店で飯にする。
安いけど酒も肴もそこそこイケる店で、そこそこに混んでいた。
メインを平らげてチビチビ飲りながらオッサンの店で買った槍の指南書に目を通す、こんな物まで置いてあるなんて本当に“よろず屋”だ。
半分くらいは作者が槍使いとして名を上げるまでの自慢話と言うかエピソードトークな感じ、それも多分結構盛ってる。
指南書としてはどうかと思うが、読み物としてはそれなりに面白い。
槍の扱いの項も書いてある事は非常に参考になり、一冊で二度美味しい書物だ。
剣が主流な世の中で貴重な書物だ。
読書に勤しんでると衝立の向こうの隣のテーブルが騒がしい。
なんでも最近はツイてないだのギルドの考えはヌルイとか何とか……
それもコレも毛皮野郎を取り逃がしたのがケチのつけ始めで見つけたらタダじゃ置かない、とか息巻いている。
へぇ、毛皮野郎さんとやらも大変だねぇ。
とはなりませんよ?
俺は鈍感系ラノベ主人公じゃないですからね、
品の無い声も記憶の奥底から蘇ってくる。
俺のゴブリンバット改Mark IIIストーンカスタムとボーラ・
特にボーラは汚染攻撃という非人道的な反撃により泣く泣く処分する事になったのだ。
ヒョイと覗いてみると間違いない、奴だ。
離れているのに心なしか臭い。
距離にして4メートル、闇の腕が届くギリギリだ。
少し考えて奴の足元に菌の活性化を促す魔力を流す。
直接効果を受けるのは菌のみなので他の魔術に比べて気付かれにくいのが菌術の特徴だ。
暫くすると落ち着かなさげにブーツを床に擦り付け始めた。
やはり痒くなる菌が住んでいた様だ。
仕上げに菌たちに魔力を通してメッセージをお届けする。
“そこも住みやすいけど、上にもっと住みやすい場所があるよ”と。
念の為に帰り際、連中の目の前をこれ見よがしに歩いて視線も合わせたが全然気づかれなかった。
髪型もサッパリ短髪で特製ザージャケとシティボーイなローブを着こなすイケメン
さて、明日から森へ御出勤だ。
つまらぬ縁は念入りに祓って備えよう。
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