呪術師準備中
第24話 呪術師と投槍器
晴れて
「らっしゃい……ってアンタか。調子はどうだい?」
相変わらずカウンターの裏で何かをしていた様だが一瞥すると声を掛けてきた。
「ジャケットは動きやすいし、片鎌槍も申し分ない。足りないのは俺の修練だけ、ですかね」
「そりゃあ良かった、その上着は儂の力作だからな。武器は振れば振るほど、突けば突くほど手に馴染んでくるじゃろうて。技術の最奥は脱力にあり、とは言うがまずは慣れだな。不格好でも力んでいても手に馴染ますが上手への近道、とも言うからな」
なるほど、けだし名言だな。
しかし上着が力作?
「これって自作なんですか?」
「これでも職人上がりでな。造るのも好きだがそれ以上に優れた工夫に触れる喜びが勝ってしまって気づけばそれらを扱う商人よ。そいつは触発されて造った品だが儂のオリジナルよ」
なるほど、だから暇さえあればカウンターで何かしらいじってるのだろう。
「金が貯まったらプレートを希少金属にでも差し替えますかね」
「目の付け所は悪く無いが軽くて丈夫なプレートを入れるだけでは片手落ちじゃの、そこに緩衝材も吟味してこその逸品じゃ」
なるほど、流石製作者なだけある。
「完成形を見据えた上で値段を抑えた使用に耐える品質で販売、そして拡張性も残してるとは良く出来てますねぇ」
「褒めても何も出やせんぞ?……豆でも食うか?」
何この可愛いオッサン。
「ありがとうございます、でも先に先日見逃してた商品を見させてもらいますよ」
「うむ、気になったら手に取ってみるといい」
そう言うとオッサンはカウンターに引っ込む。
収納魔法持ちに随分と寛大だな、盗む気なんかサラサラ無いけど信頼はかたじけない。
本日のお目当てはブーツに予備の槍とサブウェポン、そして弓矢だ。
まずは予備の槍だな、
槍が陳列してある一角を眺めていると色々ある中で、槍では無いものが置いてある。
「これは……投槍器?」
アトラトルやウーメラとも呼ばれる投げ槍の補助具だ。
個人的にはウーメラって呼び方には浪漫を感じる。
前世では伝説の宇宙船が幾多の困難を乗り越え
それこそ針の穴を通す様な旅路の果てだったのだ、
「よく知ってるの」
背後から掛けられた声に振り向くとオッサンが木のカップを押し付けてくる。
中身を覗くとナッツが詰まってる。
「見知ってるのは凸形の投槍器なんですけど……これは凹形なんですね」
乾杯の仕草で謝意を示し形状に言及する。
「確かに細くて軽い槍なら石突を凹形に、投槍器を凸形にする方が安定する。じゃがコイツはそこにあるジャベリンに合わせて造ったもんじゃ、距離は稼げんが威力は増す」
見れば長さにして1.5メートル、太さ3センチ程の投げ槍だ。
シンプル且つ無骨な形状で石突の造りもしっかりしている……なるほど、この石突の形状に合わせたのか。
何気ない曲線で構成された木製の棒は軽く、不思議と手に馴染む。
凹形の受け部分は無骨な槍を支える為に、しっかりと補強が為されてる……いい。
ジャベリンも手に取ってみると先端に重心が取られてる、投擲の為のバランスだ。
無骨な外見だが触ってみると丁寧に仕上げられてるのがよく分かる、手に吸い付く様な感触だ。
「投げ槍じゃからの、穂先が重い。つまりはメイスや棍棒の様に振り回しても使える、むしろ使える様に歪み防止で芯材もそれなりに仕込んである。その分少し重たいがな」
なるほど“槍は叩くもの”を外してない訳ね、どうやらオッサンの工夫ってのは初心者からでも使える様にって感じだね。
「これ、買います。取り敢えずジャベリンと投槍器2つずつで!」
「……練習用なら同じ重量バランスの杖があるぞ?」
「ならそれも下さい、それも2本で」
「ふむ、なんで2本なんじゃ?」
「あ〜、経験上投擲武器って2射か3射くらいで事足りるって言うか距離を詰められますんで、しっかり狙って2射くらいかと」
本当ならば古事記に則り保存用・鑑賞用・布教用と最低3セットは欲しいところだが、他にも買わなければならない物もあるし予算もあるから苦渋の決断だ。
「なるほど、実戦を見据えるとそう言う考えにも至るものか……」
「俺がソロだからってのもあるんですけどね。それと石突サイズの金属製の礫ってあります?無かったら注文とか出来ます?」
「それくらいなら造るのも造作も無いが……察するに投槍器で礫を放る気なのか?
全く持って仰っしゃる通り、だけどこちらも腹に一案あるのですよ。
「確かに投石紐の方が距離も威力も出るでしょうし礫のサイズに拘らなくても良いでしょう。ただ振り回してると野生動物に気づかれてしまう事が多いんてすよ。早撃ちも出来なくはないんですがそうなると今度は礫のサイズを揃えたくなる、それならいっそ投槍器なら振り被るだけで飛ばせますからね。もちろん店主特製の凹形投槍器があってこそ、ですけどね」
それに気に入った
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