第19話 チンピラの逆恨み


「チキショウ!」


 安酒場の椅子を蹴り飛ばす。

 ムシャクシャがおさまらない、誰でもいいか、ブン殴ってやりたい気分だ。


「そう荒れるなよ、カナキン。どうせ新人なんだろ?追い詰めてヤッちまえば済む話じゃねぇか。なぁに、逃げられやしねぇよ」


 たるんだ二重あごのムサ男、ダブスキンが酒臭い息を吐きながら気安く諭してくる。

 こいつは野獣の牙のパーティメンバーパーメンだ。


「あぁん?呆気なく逃がした奴が偉そうだな!」


 そう、コイツは仲間の俺がヤラれたのに満足に返しも出来ずに戻って来やがったんだ。


「しょうがねぇだろ!テメェの自慢の盾がドタマに刺さったかと思ったら次の瞬間には消えてやがったんだよ!通りに出ても見当たらねぇし、ギルマスには逃げんな言われたしよ!」


「あんな毛皮野郎を見失うなんざぁドコに目ん玉付けてんだよ!」


 その使えねぇ目ん玉なんかより俺様のタマタマが一大事だぜコノヤロウ。


「その毛皮野郎に伸されたのはテメェだろぅが!舐められた上に御丁寧にキッチリとカタにハメられてんじゃねぇよ!ありゃぁその気になりゃドタマ潰せたってメッセージじゃぁねぇか!」


「ぁあ!?ナヨった言葉遣いで受付嬢じょうから新人向けの説明受けてたシャバ僧なんざテメェだって舐めてただろうがよ!」


 どこぞの貴族様向けの商人みたいなデスマス語りなんざ、この界隈じゃ学生あがりの青瓢箪しか使わない。

 そんなシャバ僧は俺達みたいなベテランに揉まれてを覚えていくもんだ、まずはパシリからなんだよ。


「強気だねぇ、小便たれが」


 耳に届いたヤジに俺もダブスキンも動きが止まる。

 目配せもせずに二人して立ち上がり、声がしたテーブルに歩み寄る。

 俺が前でダブスキンが後ろ、阿吽の呼吸で誰一人逃さない。


 黙って見届ける周囲の空気に気付いたのか、ヤジを飛ばした鳥頭野郎が辺りを見回す。

 振り返る前に右拳を一発カマす、後頭部から耳の裏辺りがダメージが残りやすい。

 グシャリと独特の感触がガントレット越しに伝わる、やはり人間を殴るのは別格だ。

 反応して立ち上がろうとした鳥頭のツレをダブスキンが蹴りを入れて足元に転がす。


「よ〜お、随分と達者なヤジだったな。感動して思わずとやらだぜ」


 何か言い返される前に腹と腿に蹴りをくれてやる、後は店の裏に引きずって授業料を頂いて終わりだ。

 ただ舐められないように店内を見回して一発キメておく。


「舐めた口をきく坊やがいたら教えてくれ、キッチリ教育してやんからよぉ!」


 ここの安酒場はE級か良くてD級の連中しか居ない、俺達のヤバさを教え込んでおかないとな。

 舐められたら終いだ。


「おう!遊んでねぇで座れや!仕事の話じゃ!」


 入ってくるなりダミ声でがなるのは、傷顔スカーフェイスの偉丈夫で名前はカーフ。

 我らがリーダーのお出ましだ、何でもギルマスに呼び出しくらってたらしい。


「チッ……オラ!サッサと迷惑料払えやコラ!」


 裏道での身体検査は勘弁して自己申告だけで済ませてやる、運のいい奴だ。

 ダブスキンも同じ様に徴収してる、パーメンが舐められたらパーティーとしても舐められる。

 顔を近づけて、別れの挨拶も忘れない。


「テメェらの顔は覚えたからな」

 

 オトシマエはキッチリと、だ。




「喜べ!獲物は毛皮野郎、取っ捕まえてギルマスに突き出すだけで依頼達成だ!丁重にって話だから見える場所に傷つけるんじゃねぇぞ?教育は大事だからよぉ、な!」


 流石リーダー、話がわかる。

 

 「よっしゃ!あの野郎は俺様が直々に教育してやる!」

 

 息を巻いてると、エールを呷りつつカーフは声を落として続ける。


「いいか?カナキン、だ。この指名依頼はペナルティだ……意味は分かるな?報酬は二束三文、一杯飲りゃあ吹き飛ぶ額だ。テメェの尻拭いだって事は忘れんじゃねぁぞ?」


「わかってるぜリーダー、二度は無い。油断しなきゃあんなシャバ僧なんざワンパンでオシャカだぜ」


 愛用のガントレットで拳を握り込む、アバラの何本かはイワしてやんよ。


「やり過ぎンなよ?……少し臭うんだよ、この件は。ギルマスが高々舐め腐った新人を名指しで御所望だ。裏がありそうだと思わないか?」


「見るからに山育ちの田舎者が?買いかぶり過ぎなんじゃないですかい?」


 裏があろうがヤる事ぁ同じだけどな。


「どっちにしろ引き渡し前に、よ〜っくお話し出来る時間はあるだろうよ。万が一にもしくじれねぇ、ギースには下っ端連中に街ん中張る様にひとっ走りさせてる」


「あの格好じゃあ目立ってしょうがねぇだろうな!」


 ギースはリーダーの片腕、痩せぎすの男で斥候スカウトだ。

 陰気臭い野郎だがリーダーとの付き合いも古く、信頼されてる上に下の連中にスカウト系の手ほどきをしたりと独自の人脈を持ってたりする。


 

 逃さねぇし逃げられねぇからな。



 

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