第18話 呪術師と狩人ギルド


 狩人ハンターギルドは冒険者ギルドと比べて随分とのんびりした空気感だ。

 受付は若い姉ちゃんじゃなく初老に差し掛かったおやっさんだったが、それがまたギルドとしてガッついた感じがしなくて落ち着いている。


 仕事に愛想は必要だとは思うが媚びは不要だと思うんだよね。

 おやっさんは目利きにも通じていて、ホロホロ鳥の絞め方にいたく感心していた。

 美味いもんな、ホロホロ鳥。

 美味しく出来るものは出来る限り美味しく狩りたいものだ……チートで狩ってスイマセン。


 鳥は絞めた時に腸だけは腹を割いて捨てていたけど、割かずとも肛門から腸を引っ張り出す道具もあるらしい。

 他にも羽根を毟るコツとか蜜蝋を使うやり方とかを教えてもらった。

 やはりプロの知識は凄いね、勉強になるわ。


 そんな話で盛り上がってると茶の一杯も出てくるのも冒険者ギルドとは大違い、どうにもかたじけない。

 

 麦を煎った所謂いわゆる麦茶だが味わい深い。

 麦茶も色んなバリエーションがあるらしく、例えば苦みの出る薬草とブレンドした物も茶道楽には好まれるんだとか。

 そこに牛乳と砂糖を入れる飲み方もあるそうだ。

 まるでコーヒーだが茶の湯の文化も奥が深い、食と酒の次に手を出したくなってしまう。


 お茶請けにと俺謹製の干し肉を進呈すると表から犬が飛び込んできた。

 ダグじゃないか!


「よ〜しよし、お前も干し肉食うか?昼とは違う肉だぞ?」


 ワシワシと撫でながら干し肉の切れ端をやると尻尾が凄い勢いで振り回される、相当気に入ってくれた様だ。

 そしたら間を空けずにジョバンニも入ってきたが訝しげに見てくる。


「よお、昼は助かったよ」

 

 ダグを撫でながら挨拶する。


「……リオンか?道理でダグが懐いてるのか。しかし随分と見違えたな、別人だぞ」


 ジョバンニは苦笑しながらダグの脇まで来て軽く撫でる。


「いいが買えたって事は値がついたのか?」


「お陰様でな、食うか?昼とは違う肉だ」


 干し肉を一切れ渡してやる。


「コイツは……鹿か?昼は猪だったな?相変わらず上等な干し肉だな、器用な奴だ」


 顔をほころばせるジョバンニ。


「確かに美味いな、塩味が利いてるのにまろやかだ。自作なのかい?」


 おやっさんもモグってる。


「森の中で自給自足を強いられてましたから、保存食作りは必須だったんですよ」


 それでも最初は鹿や猪なんて狩れる気がしなかったけどな、思えば成長したもんだ。


「一人じゃ捌くのも大変だったろうに。程度が良ければウチでも引き受けるよ」


 おやっさんの優しさが沁みるぜ……


「って、あぁ!持ってたわ。魔の森だと悠長に解体出来なかったから絞めて血抜きだけした鹿と猪!」


 忘れてたわぁ。


「そうかいそうかい、売るなら向こうで出しな」


 促されて鹿と猪を一頭ずつ解体場に出す。

 おやっさんとジョバンニも解体場のオッチャンと検分している。


「こいつは魂消たまげたねぇ……ホロホロも美麗品だったけど、こっちも止め刺し以外は矢傷ひとつ無い上に罠の痕も見当たらんよ」


 おやっさんが声をあげる。


「熟練の狩人ハンターでもこうはいかないぞ……」


 ジョバンニは呟きながらこっちを値踏みする。


「まぁ、ちょっとした裏技ってヤツさ。暴れたりして鬱血すると肉が傷むだろ?折角なら美味しく頂きたいからな」


「その食い意地が上物の干し肉を作らせる訳か」


 なんだか納得されてしまった。


「普通なら一頭十万なんだがな、ここまで無傷だと十五万ってトコだな。一応捌いて確認するからと待ってな」


 解体を眺めてると流れる様に刃が入っていく……って言うかおやっさんが捌くのかよ。

 へぇ、その角度で刃先を入れるのか……なるほどねぇ、勉強になるわ。

 

 あっと言う間に二頭とも各部位に切り分けられてしまった。


「完全に無傷とは恐れ入るねぇ……昔、氷魔術で仕留めて持ち込んだ奴がいたが、無傷は無傷だったけど肉が全身霜焼けで値が付かなかったけどな」


 ガハハと笑いながらそんなエピソードトークをかますおやっさん。


「二頭で三十だ……お前さんが良ければウチで登録してみないかい?」


 なんだかナチュラルに勧誘された。

 

 話を詳しく聞いてみると狩人ハンターギルドは地元採用が普通らしい。

 周辺の生態分布の管理・把握が主な仕事なので状態かどうかを判断出来るだけの知識と経験が必要となる。

 季節ごと天候ごと時間ごとで森の様相は変化する、つまり長く居着いて子の世代・孫の世代に知識を継承できる人材が求められる。

 少なくともフロンテアではそう言う政策だ。


 そして必要に求められた時に魔の森に入り狩猟・採取にて森の恵みを街へと調達する。

 その際は集団行動で、間違っても一か八かの勝負など決してしない。

 貴重な人材は得難く、安全・確実に成果を得る為に若い狩人ハンターは連携と考え方を叩き込まれる。


 一人前として単独の森歩きが許された者は、時間がある時には魔の森へ向かう。

 集団行動の時に足を引っ張らない様に、又狩人ハンターの矜持として腕を磨く為だ。


 その様な一般的な居付きの狩人ハンターとは別に狩人ハンターが存在する。

 見知らぬ森を流れ渡り、奥地にしか生息しない珍しい獲物や植物を齎す者たちだ。


 ギルドとしても平時の戦力としては計算できず、しかも姿を表すのは不定期な存在で扱いが難しい。

 それでも身分保証する制度があるのは、珍重な物を齎す卓越した腕との繋ぎが欲しいからだ。


 相当な変わり者しか居ないらしく、森人エルフに多いらしい。


「何、これだけの美麗品を納められるだけの腕なら充分さ。一応規定に照らし合わせれば同等の納品を後5回もしてくれればギルド員として迎えられる……に対してギルドは束縛はせんが仕事も充てがわん、食い扶持は全てが自由意志の納品のみだ。偶には指名依頼が発生するが受けずともよい」



 どうやら無職を脱却する道筋が照らされたみたいですよ。



 

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