第17話 冒険者ギルドマスターの皮算用


 ドスンと言う音に振り返ると引っくり返ってる雑魚の頭近くに盾が刺さってる……確かD級のカマキンとか言う戦士だ。

 盾役のクセに自分も殴りたいからと中途半端に部分鎧で防具を固めた鼻息の荒い馬鹿ボアヘッドだ。

 何も部分鎧が悪い訳では無い、落とした装甲分に見合う速さや攻撃力を捻り出せれば帳尻は合うのだが大抵は防具を固めて盾役に徹したほうがパーティー的には有り難い事が多いのだ。

 

 確かコイツのパーティーは全員殴りたがりの短絡パーティーだったか。


「そこのパーティー!野獣の牙だったか?転がってる仲間を回収して床の補修代を置いてけ!」


 全く何を遊んでるんだか。


「あの、マスター。清掃代も請求した方が……」


 受付嬢ケティがおずおずと申し上げてくる。

 カウンター越しに見下ろすと……なんで失禁してるんだよ。


「掃除代も追加だ!逃げるなよ!自分達で綺麗にするならそれもよし、だが必ず職員に終了確認させろよ!四の五の言うなら降格だからな!」


 やれやれ、珍しく解体場から呼ばれて顔を出せばコノザマだ。

 受付の管理者チーフに目配せして後を任す。


 そうこうしてる内に解体場の責任者であるディスマンがやって来た。


「マスター、よろしいですか。現場で見て欲しいブツがありまして」


 言うだけ言うとサッサと解体場に引き返していくディスマン。

 

「分かっている!呼ばれたから出てきたら少しトラブっただけだ、今行く!」


 ったくどいつもこいつも……俺の身体は1つしか無いんだ、全く何だと思ってるんだ。

 舌打ちしてる俺に愛想笑いを浮かべる職員たちに睨みを利かせて解体場に急ぐ。

 まだ混み始めてない場内で、別に取り分けてるのは……ホロホロ鳥?珍しいな。


「マスター、こいつです。珍しい上に美麗品、買い取り金額は上限です」


 上限?随分と気張ったものだ。


「ディスマン、お前が判断したなら良品中の良品なんだろう。ウチとしてはその分高く売れるなら問題はない」


「それが綺麗すぎるんですよ……矢傷も無い、打撲で肉が傷んでる訳でも無い。首にスッパリと一撃、そのまま血抜きですよ」


 首筋に手刀を当てて説明してくる。


「偶々上手く狩れたんじゃないか?南方の狩猟民族なら弓よりも投げナイフで獲物を狩る連中だっているだろう?」


「それが一羽二羽なら偶然と片付けてもいいんですが今回は五羽、全部綺麗に……」


 トントンと首手刀で語尾を濁す。


「確かに不自然か……森のホロホロは警戒心が強くてウチの冒険者共じゃあ滅多に狩れない。狩人ハンター達でも簡単ではないと聞くが……毒餌か?」


 毒餌の狩りは毒の種類によっては身が傷んで可食にならない、そうでなくても巣で息絶えた獲物を探し出して回収する迄に腐敗が進んで商品にならない場合が多い。

 そもそも狩りと呼ぶには回収しきれない様な獲物が出てくる杜撰な手口で駆除と呼ぶ方が正しい。

 故に特例を除けば禁止されてる狩猟法だ。


「それも考慮して鑑定の魔道具も使いましたがシロでした、念の為に胃や食道を重点的に鑑定しましたが綺麗なもんです。次に疑ったのは伝染病ですが、こちらもシロでした」


 確かに伝染病でバタバタ落ちてたら、考えなしが棚ボタよろしく嬉々として絞めて持ち込んでくるのも頷ける。

 だがそんな伝染病が流行したならホロホロ鳥だけに留まるとは考えにくい、調査班を組んで対策を立てなければ被害がどこまで増えるか考えたくも無い。


「不自然だが悪い話では無いというわけか……だが誰が持ち込んだんだ?悪いがウチの冒険者共は雑な連中ばかりだぞ?」


 大抵の冒険者など一度は納品で買い叩かれて痛い目を見てから気を使う様になるのだ。

 それでも最低限の品質保持に気を使うだけ、それ以上に上げてくるのは極少数だ。


「見ない顔でしたね。伸び放題のザンバラ髪に無精髭、チグハグな毛皮を防具代わり。随分と身軽だと思ったら収納魔法持ちでしたよ」


 アイツか!……確かケティが対応してたのをカマキンがチョッカイ出して返り討ちか。


「あー、そこの!スマンが受付嬢のケティを呼んできてくれないか!対応中ならチーフに代わってもらってこっちを優先させてくれ!」


 暇そうな奴に指示を出してディスマンに向かい直る。


「狩りの上手い魔術師か……ホロホロを綺麗に狩れる魔術なんてあるのか?」


睡眠スリープなんかは活動中の野生動物にはまず抵抗レジストされるでしょうね、高位の風魔術に窒息サファケーションなんてのがあるそうですが使い手も少ない上に使い勝手が非常に悪いと聞きます」


 聞いたことはあるがマニアックな上に機敏に動かれると術が追いつかないらしい、野生動物相手ならまず逃げられる。


「使える魔術があるならとっくに誰かが使ってるか……何にしろじゃないなら凄腕だ、安定して狩れるならウチは濡れ手に粟だ」


「通常買い取りの範囲なら、どんなに上物でも上限額止まりですからね。冒険者としてウチで囲ってしまえば金の卵を産む鳥になりますよ」


 ディスマンと新しい儲け話の筋道を立てているとパタパタとケティがやって来た。


「ケティ、さっきの毛皮の男の登録情報を教えてくれ」


 魔術師なのは間違いない。

 系統に合わせたパーティーを充てがってやってもいいし、瑕疵や隙があるならハメてウチ専属で飼い殺してもいい。


「それが〜、満額査定の凄腕さんだったんで一生懸命勧誘してたんですけど〜、カマキンさんに邪魔されて帰られちゃいました。私も担当になって収益上げたかったんですよね〜……そのホロホロ鳥が満額査定ですか?肉付きも良くって美味しそうですね〜」


「なっ!?引き止めなかったのか?」


 何でそんなに呑気なんだ?金の卵だぞ?受付嬢だって担当になれば割合でマージンが入ってくるのに?


「え〜、マスターが解散を指示してたじゃぁないですか〜。満額さんもドン引きしてましたし無理ですよ〜」


 俺のせいだとでも言うのか?

 あぁっ!なんてこった畜生!

 ……いや、ここでキレても仕方がない。


「あれは屯ってた連中に散れと指示したんだ、太客だと思うならもう少し必死に引き止めろ!」


 いかん、どうしても口調が荒くなる。


「……わかりました」


 不承不承といった表情を少しは隠せ、受付嬢。

 しかしコレでは、すっかり計算違いだ。


「野獣の牙はまだ居るか?アイツらペナルティだ!」



 毛皮の男を何としてでも捕まえなくては。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る