第15話 呪術師とチンピラ
嫌な予感はしていた。
呪眼で視えてたのは
感情は視線に良く乗る、視線に乗った感情は呪眼にダダ漏れで非常に不愉快だった。
軽い気持ちでカツアゲとかするタイプなんじゃなかろうか、呪眼で視ずとも品の無い不躾な視線は歓迎したくない類いだ。
意気と害意が膨らんだところで感情の先走る軌道から身をそらす。
軌道に沿って拳が降ってきた。
どうやらガントレットで包まれた拳の様だがゴブリンバット改に叩き込まれて砕き折る。
「おっとぉ、すまねぇな兄ちゃん。足が縺れちまったよ」
見れば身体のあちこちに部分鎧を着けて盾を背負った前衛職っぽいチンピラがヘラヘラと軽薄な口調で顔を近づけてくる。
ちょっと臭い。
「けど兄ちゃん、こ〜んな木の棒や石っころじゃあ武器とは言えないぜぇ?まぁ壊した手前、俺達が面倒見てやるよ。新人なんだろ?戦い方の基本ってヤツをキッチリ仕込んでやるからよぉ」
カウンターに散らばった破片を見ながらわざとらしくご教授してくる。
呪眼を使わずとも舐め腐った感情がありありと見て取れる。
「あぁ〜ん?ビビっちゃったのかぁ?どうした?文句があんなら掛かって来いよ?」
近づけてくる顔が臭いので一歩半下がって徐ろにアッパーカットの軌道で拳を掬い上げる、下がった事で拳は届かない間合いだ。
一瞬驚いた表情を見せるも間合いを読んだチンピラの顔が醜い笑顔で歪む。
が、次の瞬間に想定外の痛みに襲われ表情が固まる。
掬い上げた拳の軌道の外側を追随した石がチンピラの股間に喰い込んだのだ……そう、拳にはボーラの端を握り込んでいた。
紐の両端に石を括り付けただけのシロモノだが狩りの道具として歴史は古く、暗器としては万力鎖など形を変えて後世まで伝承し続けられた実績もある。
ゆっくりと膝から崩れる様に内股で倒れるチンピラ。
「石っころが何だって?少なくともお前さんの玉っころよりは使い勝手がいいぞ?」
ピクピクしてるチンピラに煽りをカマしながら、いつでも次弾を放てる様にボーラを揺らしながら周囲を伺う。
「テメェ!何しやがんだ!」
チンピラの仲間っぽいのが食いかかってくるが、こちらのボーラを警戒してか踏み込んでは来ない。
仲間っぽい連中以外はニヤニヤと楽しそうにギャラリーを気取っている……ここは何処の無法地帯だよ。
「飼い主ならちゃんと躾けとけ、犬の方がお利口さんだぞ?」
煽ってはみたが、ダグと比べるのはダグに失礼か……ごめんよ、ダグ。
「何をしている!」
心の中で軽く反省と謝罪してたら、受付カウンターの奥から浅黒いオッサンが声を張り上げる。
ギャラリーからはギルマスが出てくるのは早いとか聞こえてくる、どうやら動物園の責任者らしい。
「こっちの受付嬢と話してたら突然ガントレットで襲いかかってきたんですよ。避けたらそのまんまこっちの商売道具を壊されましたね、文句があるなら掛かってこいってんで一発返したらコノザマですよ」
さっきからアワアワしてる受付嬢に変わって説明してやる、俺ってば親切だねアハハン♪
「ケティ、本当か?」
アワアワ受付嬢の名前だろう、ケティはコクコクと首肯する。
ギルマスは倒れてるチンピラに一瞥すると眉間にシワを寄せる。
「ガントレットなら防具だろ、ジャレてるだけなんだから
どうも何か一言言わないと気が済まない質らしいが、余計な一言ってなもんだ。
カウンターの上の残骸を闇の世界に仕舞って、足元に転がってた盾を拾う。
形状から見てカイトシールドかな?チンピラが背負ってたやつだ。
「なるほどねぇ、防具ならジャレ合いになるのが冒険者なんですか……勉強になりますよ」
拾った盾をマジマジと眺めながら言うと、ギルマスに何だコイツ?みたいな顔をされる。
が、ギルマスはすぐに興味なさげにギャラリー達に散れと手を振る。
「手続きは完了してますよね?邪魔が入ったんで今日は失礼します、宜しいですね?」
受付嬢に確認すると、コクコクしてきた。
じゃあ帰りますかと踵を返して去り際に一言。
「あぁ、そうだ。お返ししときますね防具」
放り投げたカイトシールドは放物線を描き、横たわったチンピラの目の前に落下する。
反射的にビクンと震えたチンピラの下半身から液体が漏れ出す。
さっきからタイミング見計らって襲い掛かろうと様子を伺ってたのはバレバレなんだよ、宙を舞った鉄板が頭に降ってきた感想は如何なもんなのかね。
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