呪術師就活中

第13話 呪術師と初めての街


 ジョバンニと愛犬ダグは手慣れた感じで森を歩く、ベテランらしく見るポイントを理解しきってるのだろう。

 俺が強引に突っ切った“魔除けの茨”の切れ目の場所を告げると既に把握していた様だ。

 何でも次回の錬金ギルドとの合同巡回の時に追加で植樹する予定だそうだ。


 狩人ハンターギルドの仕事において巡回業務は実に8割を占めるらしい。

 領主が重要視しており補助金が充てられているそうだ。

 街壁はあるものの田畑は街の周辺に広がっている為、魔の森を封じ込める事と害獣被害を最小限に抑える事が肝要と判断したのだろう。

 もしくはそう判断せざるを得ない歴史があるのかも知れない。


 この辺りは温暖な気候であり冬季でも魔の森に棲む生き物は活動しており、年間を通して警戒する必要があるのだそうだ。

 雪など降ることもなく、冬でも野営が可能なのだそうだ。


 色々教えてもらった礼に自作の干し肉を贈呈したら非常に喜ばれた。


「こりゃあ滅多にお目にかかれない上物だ……こいつを自作で?随分な腕前だな。上手くやればコレだけで食っていけそうだぞ?」


 評価も非常に高い。

 菌術による熟成と竹で燻した俺謹製の逸品なので鼻が高い。

 一切れ御相伴に預かったダグも尻尾をえらい勢いで振っていた……ワンコロカワユス。


 森が途切れて開けた道に出た。

 街路樹っぽく魔除けの茨が植えてある。

 本来はこの道から魔の森に入っていくらしい。

 しばらくすると街壁と門が見えてきた。

 北門に当たるらしく魔の森で稼ぐ連中御用達の門だそうだ。

 どうやら俺は西から東に流れる川沿いを下って来たらしい。

 ジョバンニ達は東方面の巡回が残ってるので北門で別れた、わざわざ門兵に引き合わせてくれるとは親切な奴だ……干し肉が効いたのかな?


 門兵によると身分証の無い者には仮身分証が発行されるそうだ。

 三日後までに正規の身分証を提示するか更新しないと不法滞在になるらしい。

 ちなみに仮身分証の発行費用は三日後まで待ってもらえるそうだ。

 

 門兵に非常にザックリとした街の説明を受けた。

 要は南は貴族街だから近づくべからず、冒険者ギルドは北門近くにあって冒険者向けの店は大体北部に固まってるから下手に北部以外をうろついて迷子になるなよって感じだ。

 うん、非常に分かりやすいね。


 さて異世界転生のお約束だと身分証は冒険者ギルドで作るパティーンだが、別に作らなくても森の中で狩り暮らしってのもアリなんだよな。

 一月以上生活してみて特に人恋しいって感情も湧かなかったし不便もそこまで感じなかった。

 何より街に入ってから森では有り得なかった様々な感情のウネリに胸焼け気味だ。

 俗に言う人に酔うってヤツ?違うか。

 慣れれば問題ないんだろうけど慣れるもんなのかね……


 何にしろ売れる物売って先立つものを手に入れようか。

 そんで色々確認していきますかね。




 そんな感じでやって来ました冒険者ギルド。

 テンプレ通りの酒場併設で掲示板と若い受付嬢が並んだカウンターがある絵に描いたような冒険者ギルドだ。

 取り敢えず掲示板を眺めてみる……よし、文字は読めるな。

 呪術書の文字が読めてたから大丈夫だとは思ってたけど、特殊な魔導文字とかでそれしか読めないって可能生もあったから一安心だ。


 え〜と、何々?……ふむふむ、常設依頼で一番安いのがゴブリン魔石1個で千マールね。

 マールってのが貨幣単位みたいだね。

 感覚的に1日一万マールも稼げれば食ってけるイメージなんだろうか、一人で1日で十匹コンスタントに狩るなら出来そうなイメージ。

 これが六人パーティーだと六十匹?結構大変そうか?


 何にしろ手持ちの獲物を一部でいいから換金しないとな。

 獲物の買い取りは……あ、裏の解体所に持ち込みっぽいね、了解了解。


 


「すいませ〜ん、獲物の買い取りお願いしたいんですけど、こちらでよろしいですか?」


 時間が中途半端なのか手持ち無沙汰な感じの、染みの付いたエプロンのおっさんに話しかける。


「ああん?見ない顔でオマケにエライ格好だな……まあいい、何の持ち込みだ?」


 チグハグな毛皮装備に目にかかる前髪に無精髭と来たら……まぁ、エライ格好言われてもしょうがない。


「野鳥なんですけど」


 コイツが一番楽に狩れるのよねん。


「収納魔法持ちか……ってホロホロ鳥かよ!珍しいモン狩ってきたな……しかも随分と綺麗に絞めてある、コイツは高くぜ」


 ほほう?


「ザックリでいいんで一匹いくらくらいになりそうです?勿論開いて肉の質見ないと、なんでしょうけど本当にザックリだとどんなもんでしょう?」


 これでスンナリ答える様なら目利きに自信あり、なんだろうな。


「ホロホロなら一万は下らないな、品薄だしこんだけ綺麗に絞めてあるなら二万は期待できるな」


 なるほど。


「あと4匹あるんですよ、出しちゃいますね」


 これで期待値十万マール、ゴブリン百匹分の労働対価だと思えば中々のモンじゃないのかね。


「景気がいいじゃないか、ちょっとした小金持ちだな。コイツが預かり証になる、査定が終わったら受付で換金引き換え証にもなるから無くすなよ?」 


「ありがとうございます」


「あいよ!ご丁寧にどうも」


 どうやら幸先はいいらしい。



 

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