第12話 呪術師と狩人
森の雰囲気が変わった、正確には戻ったって言った方が正しいかも知れない。
魔物の気配が減ったのだ、多分最初にスポーンした所と同じくらいの感じ。
居てもゴブリンくらいの雰囲気だ……って早速ゴブリンと遭遇しそうだ。
遭遇したのはナイフゴブリン、もしかしたらダガーかも知れない。
投擲されても面倒くさいからサッサと距離を詰めてバット一閃!……あぁ、なんかバットからメキッて音がした。
巻いてある樹皮の隙間から覗くとヒビが入ってらっしゃる、バットがバッドになっちゃったよ。
壊れない様に手加減して強化してたのにコノザマてすよ、まぁゴブリン相手なら下手したら素手でも倒せそうな気もする。
大分強くなったって言うか戦い慣れてしまったなぁ。
森を進んでいくと独特の臭いがする腰の高さの藪が目立つ、棘が生えてて天然のバリケードっぽい感じ。
迂回しようとしても切れ目っぽい場所も見当たらない。
辛うじて通れそうな場所から少々強引に突破するとゴブリンの気配もしなくなった。
心なしか樹木の生え方も疎らな感じもする、もしかしたら人の住む領域に近づいたのかも知れない。
呪眼に魔力を流して探ってみる……お?気配を抑えながら移動してる反応が2つ……明らかに上下関係のある感じ、と言うか別々の生き物だな。
こちらに気付いたのか下っ端の気配が結構なスピードで近づいてくる……狼?いや犬っぽいな。
案の定、飛び出してきた犬は距離を置いて止まると2回吠えてから様子を伺っている。
恐らく飼い主への合図からの待機なのだろう、よく訓練されている。
刺激してもしょうがないのでこちらも立ち止まって待ちに入る、森を歩き慣れた風な気配がやってくると髭面の山男が現れた。
何ていうか、ザ・狩人って感じの年季が入った感じのおっさんだ。
腰にはマチェーテと矢筒、手には弓持ち各所に補強の入った革の服を着ている姿は中々に絵になる。
「ここは禁猟区だが、何をしている?」
明らかに不審者に対する対応をしてくる狩人。
そりゃそうだ、俺の今の格好は伸ばすに任せたザンバラ髪に無精髭、自作の鞣した毛皮のマントに手甲脚甲腰蓑一式、それも素材が狼だったり鹿だったり猪だったりバラバラだ。
そう、ザ・不審者と呼ぶに相応しい着こなしなのだ。
「迷子でな、人里求めて森を抜けてきた」
両手のひらを見せて敵意が無いジェスチャーをしながら応える。
言葉が通じるタイプの転生だったみたいだ、ありがとう!
「森を?この先の魔の森をか?」
狩人は驚きながら問い質す。
「魔の森?名前は知らなかったけど、確かに物騒な森だったよ」
本当に物騒で抜けるのに骨が折れたけどな、物理的にも。
「物騒の一言で済ませるのかよ……それに迷子じゃ無くて遭難だろ」
呆れたような狩人。
「そうなんですよ」
……あ、なんか気温が2度くらい下がった気がする。
ワンコロも何故か一瞥すると俺への警戒度を下げて周辺への警戒フェイズに移行した、解せぬ。
「無駄に元気そうだな……街ならこの方向だ。一人で行けるか?生憎と俺は今巡回中でな、ついて来るなら案内するぜ?」
どうやら巡回業務の中には不審者の保護や捕獲は含まれないらしい。
「迷子だからな、これ以上彷徨いたくない。案内を頼むよ、どうせなら街の周辺も覚えて損はないだろ?」
貴重な第1村人……いや街人だ、仕事の邪魔にならない程度には情報を引っ張っておきたい。
「ジョバンニだ。相棒はダグ」
唐突に名乗られた。
ワンコロも振り向いて一度だけ吠えて挨拶してきた、相当賢いみたいだ。
「リオンだ、宜しく頼むよ」
名前なんか覚えてないから当然偽名だ、呪術書のタイトルが“リ オンの書”って書いてあったから拝借した。
呪眼に反応しないから真名とかでも無かったので丁度よかった。
街の名前はフロンテア、魔の森に隣接する辺境都市でそこそこ栄えてる方らしい。
元々が魔の森に対する防壁的な町として作られたが魔物狩りに勤しむ冒険者達が集まり、栄えていったそうだ。
つまり冒険者の街という側面が強いらしい。
だが歴史的にはジョバンニも所属している
狩人の巡回の目的は大きく2つ、“魔除けの茨”と呼ばれる特定植物の管理と野生動物の分布調査だ。
独特の臭いのした棘のある藪が“魔除けの茨”だった様で錬金ギルドによって開発された植物らしい。
魔物が嫌う臭いで魔の森から出て来ない様に植えられているのだそうだ。
野生動物の分布調査は田畑を荒らす害獣生息数のコントロールに必要らしい。
害獣だからと乱獲して生態バランスが崩れたとしよう。
その害獣が捕食していた動物が異常繁殖して余計に田畑を荒らす、なんて事態にならない様に常日頃からの調査が欠かせないそうだ。
故に禁猟区として設定しているらしい。
余所者が知らずに狩ってしまっても生態系に影響が出ない限りお咎めはないが、それでも結構な厳重注意を受けるらしい。
狩りをするなら魔の森へ、それなりに準備と覚悟をしていけとの事。
記憶喪失で森の中で狩猟生活していた身の上を話すと、半ば呆れられながらも狩りの収穫物は冒険者ギルドで買い取りしてくれると教えてくれた。
もし綺麗に狩れた自信があるのなら
それぞれの買い取り品目に相違があるので窓口で確認する必要があるらしい。
取り敢えず人里で生きていく算段が付きそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます