第6話 呪術師としょっぱさ
塩が欲しい、そして紐が欲しい。
森スタートの異世界モノは割りと簡単に人里へ辿り着けるイメージがあるけど、呪眼で探ってみても人間っぽい感情とかは全然感じられない。
長期戦を見据えて生存戦略を立てないと詰んでしまう。
衛星放送のサバイバル番組と比べれば随分とヌルゲーなんだろうけど、こちとら天下御免の素人様だ。
キャンプブームで仕入れたにわかブッシュクラフト知識と科学番組で見たうろ覚え知識が数少ない拠り所だ。
塩って岩塩の鉱脈?なんて言うかそんなのとか海でも無いと厳しいよなぁ……
狩猟して動物の血液から塩分補給とか難易度高過ぎっしょ。
まぁ案ずるより産むが易し、呪眼で「しょっぱい」感情を探ってみる……ってあるよ!やったぜヤスシ!
取り敢えず刃物が手に入ったので道々目に付く植物、茎が真っすぐで節が無くてカブレなさそうなのを採取して行く。
紐作りの材料になる筈だ……麻とか藁とかが大量にあればロープとかも作れるんだけどなぁ……
けれど今は食べれる野草事典とかマジ欲しいわ。
――――――――
呪眼を頼りに森が開けた場所に辿り着くと湖だった、湖畔には白い花が咲き誇り水面を撫でた涼し気な風が吹き抜ける。
動物の足跡から水場になってる様だ。
川とどっちが綺麗なんだろ?手で湖面を掬ってみるとなんだか表面が泡っぽいと言うか全体的に濁ってると言うか少しベタつく様な気がする。
ちょいとデリケートな人間様にはNGな雰囲気っぽいね。
しかし何で「しょっぱい」感情の痕跡がココなんだろうか?
景色的にも綺麗だし湖も充分な水量がある、少なくとも動物とかが“「しょっぱい」場所だな”とか言う感情を残すとは思えないしそもそも意味が違う。
この辺に岩塩の鉱脈的なのがあるのかね、けどそしたらこの湖って……
先程、湖水を掬った指先を恐る恐る舐めてみる……しょっぱ!
これは決して嘘を付いてる汗の味では無い筈!
つまりはここの湖は塩湖だったのだ。
朗報ではあるけどチョイとばかり悩ましい、塩水から塩を抽出するのは素人様にはハードルが高いのですよ。
パッと思いつくのは蒸留だけど、相当な量を煮詰めても取れる塩の量はタカが知れてる。
それだけの薪が必要だし、確か海水の場合は不純物が多過ぎて塩味よりも苦味が強過ぎて更に何か一手間が必要だった筈だ……塩湖の場合はどうなんだろうね。
まぁ贅沢は言ってらんない、水と塩の安定的な確保は目鼻がついた。
次は食だ、流石にタケノコオンリーでは身が持たない。
動物性タンパク質も欲しいけど塩湖だと魚は期待できないよなぁ……川にいるかな?狩猟も視野に入れないとだね。
炭水化物と言うか主食的なモノも欲しい、米とか贅沢は言わない……麦とかトウモロコシとか……それも贅沢か。
野生のバナナとかは理想的な栄養源とか言われてなかったっけか?昔の人はドングリが主食だったとも聞く……ん~、ハードル高いなぁ。
あとは野菜だよなぁ……白菜とキャベツの区別くらいはつくけど有毒な近縁種があるのか、そして見分けがつくのかなんて知識は当然無い。
根菜なら大体食えるとか、どっかで聞いたかもだけどジャガイモだって発芽してたらアウトだしコンニャク芋とか適切な処理・加工しないと只のオブジェだぜ?
あんなんを食える様に加工する方法を見出した先人は控えめに言って尊敬すべき大変態だ。
ゴボウを提供されて「木の根を食わせるのか!?」ってキれた人種も居たらしいけど、冷静に考えればアレもハードル高いよな。
だが異世界自然薯とかはモヌゴスイロマンを感じる。
白い花が咲き誇る風景を愛でながら益体もないアレコレを考える。
心なしか頬を撫でる風も潮風を感じさせる……確か磯臭さってのは海岸に生息するプランクトンとか微生物が原因で磯臭くない海岸ってのもあるらしい。
ん?塩湖の湖畔に白い花?って言うか植物?
改めて群生する白い花畑に近付いてマジマジと観察してみる。
美しい花弁に触れるとポロポロと崩れていく。
これ、花じゃなくて結晶化した塩だ!
指についた花弁の名残りをチョイと舐めてみると滋味すら感じる旨塩だ、ファンタジー植物グッジョブ!
御祓いしてから加工した竹筒に塩花の花弁部分を詰めていく、厄祓いすると何らかの残滓が残るっぽいので
川の水だって竹筒に汲んだ水を御祓いしても底に不純物っぽいのが沈殿してて上澄みだけを飲用として取り分けてるのだ。
塩生植物の代表格、アイスプラントも食用だった筈、何株か持って帰って実験するしかないっしょ。
食用可で不味くないんだったら、最初から塩味の野菜とかリピーターになっちゃうよ?
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