第10話: 敵の刺客
二人が外に出ると、扉が再び閉まる。すると、三上公平が二人の前に来て、さっとひざまずく。「タクミ博士。先程のご無礼、平にお許しください…私は初代の言葉通り、タクミ様の意に沿って動きます。とりあえず、屋敷の奥座敷に戻りましょう」
奥座敷に戻ると、女中が再び、三人に緑茶と和菓子を持ってくる。すべてを打ち明けられた公平は、驚きとともに、二人に協力することを誓った。
「とりあえず、SETOは味方になったけど、問題はTOTOの方…アジトはどこなんだろう?フランスの本社じゃないことははっきりしているけど」ルミエールが和菓子をほうばりながら、首を傾げる。
「TOTO!…実は最近、うちの財団に裏切り者が紛れ込んでいるという噂を耳にして、調べていました。それがどうやらTOTOの刺客らしいのです」公平が二人に打ち明ける。
「そうなんですか!…それが誰かはわかっているんですか?」タクミがたずねる。
「いえ。ただ、うちが管理しているSMAIが勝手にTOTOの医療技術に使われている形跡があるのは確かです。しかし、そこはもう、初代が手を打っている…なので、今は大丈夫だとは思っています」
「ですね。ミカミ君が、こちらで打てる手はもうすべて打っている」タクミがうなずく。
「あれ?としたら、TOTOの側も、それにもう気づいてるんじゃ…」そう言いかけた瞬間、ルミエールは背筋に寒気を覚えた。邪悪なオーラが近づいてくるのを感じたのだ。
タクミとルミエールがミカミ財団の奥座敷で三上公平と対話を続ける中、屋敷の外では暗闇に紛れた影が静かに動いていた。影は光学迷彩スーツをまとい、屋敷のセキュリティを無効化しながら忍び寄っていた。その正体は、TOTOの秘密部門に所属する冷酷な刺客、コードネーム「レイヴン」だった。
レイヴンは、TOTOの影のトップからタクミとルミエールを排除する命令を受けていた。彼のヘルメットには、高度なナイトビジョンと音声解析機能が搭載されており、屋敷内の動きを正確に把握していた。
「ターゲットの位置を特定。目標に接近中。」レイヴンはAIアシスタントに報告した。
その頃、タクミとルミエールは公平にプロジェクトの詳細を説明していた。「私たちの目標は、子どもたちが平和に暮らせる未来を作ることです。」ルミエールが語る。
突然、屋敷の外から微かな異音が聞こえた。公平は眉をひそめ、「何か不審な気配が…」とつぶやいた。
その瞬間、障子が音もなく開き、レイヴンが姿を現した。彼の目は冷徹で、手にはナノテクノロジーを駆使した暗器が握られていた。
「ターゲット発見。任務を遂行する。」レイヴンは冷たく宣言した。
タクミは瞬時に状況を理解し、ルミエールを庇うように前に出た。「誰だ!何の目的でここに来た?」
レイヴンは無言のまま、攻撃を開始した。彼の動きは信じられないほど速く、タクミは必死に応戦したが、レイヴンの技術と装備は圧倒的だった。
しかし、ルミエールもただの企業オーナーではなかった。彼女はすばやくスマートデバイスを操作し、ミカミ財団のセキュリティシステムを起動した。屋敷内の自動防衛機構が作動し、レイヴンに向けて高周波音波を発射した。
「うっ…!」レイヴンは一瞬ひるんだが、すぐに体勢を立て直した。「抵抗しても無
駄だ。任務は必ず遂行する。」
その時、公平が冷静に立ち上がり、レイヴンに向かって声をかけた。「この屋敷に手を出すことは許さない。ここは私の先祖たちが築いた場所だ。」
公平の言葉に一瞬の静寂が訪れたが、レイヴンは動きを止めなかった。しかし、その隙を突いてタクミがレイヴンの腕を掴み、暗器を取り上げた。
「これで終わりだ。」タクミは冷静に言った。
レイヴンは不敵に笑い、急に体が透明化し始めた。「また会おう・・次はもっと楽しませてもらう。」
レイヴンは光学迷彩を再び発動させ、屋敷の影に溶け込むように姿を消した…と思ったら、姿がまったく消えていなかった!「え?・・あれ」しかも、いくら体を動かそうとしても、その場から一歩も動けなくなっていた。
三人がその姿を見て、くすくす笑った。天使が作る光監獄から逃れられる人間など、この地球には存在しなかった。
「茶番は終わりよ…てか、あなた誰?名前は?」ルミエールが問いただす。
「言うわけないだろう…いくら脅しても無駄だ!」レイブンの表情には、屈強な意思が感じられた。まったく動じている様子はない。
「ふーん。レイヴン、って言うんだ…で、やっぱ、君はTOTOの刺客なんだね」タクミが忍者服を来た彼をじっと見て、そうつぶやいた。
「どうしてそれを!」レイブンはあっけにとられ、驚いた表情でタクミを見る。しかし、驚いたのは、レイヴンだけでない…なぜか、ぶるぶると唇をふるわせ、怒りに震えるルミエールの姿が近くにあった。
「タクミ、こっちの世界でも、相手の心が読めるみたいね。」ルミエールの髪の毛が逆立ち、二つの光る目がじっとタクミをにらみつけている。
そのあまりに恐ろしい姿に、その場にいる誰もが凍りついた。大地が小刻みに震える。「地震!」と言って、公平がたまらず、石灯籠にしがみつく。
「ごめん…言いそびれた」タクミが縮こまって謝る。
「はあ?じゃ、こっちに来てから、ずっと、私の心を読んでたのね!」天使の激しい怒りの声が屋敷中に響く。その轟きは、雷鳴に等しい。
「違う…そんなことしていないよ!」タクミが必死でルミエールの怒りをなだようとする。
レイブンは、すでに光監獄から解き放たれていた。なので、普段の彼なら、このチャンスを逃さない。さっとその場から消えていただろう。しかし、今の彼は、膝がガクガク震えて止まらなかった。立ちすくんだ彼は顔面蒼白で、恐怖のあまり、小便まで漏らしている。
「はあ?なら、どういうことか、ちゃんと説明して!」
「…ルミエールを包む光球体が、あの結界と同じ、量子コヒーレンス場を作り出しているんだよ。」
「またそれ…私を誤魔化そうとしてるんじゃないの?」
「違うよ!多分、光球体が、最初の結界と、さっきまでいたミカミ君の巨大量子コンピュータの中で、完全に量子化されたんだと思う…たとえば、鉄を長い間、磁石につけると、その鉄が磁石から離れた後でも、磁力を持ち続けるのは知っているよね?」
「それくらいは、私でも知ってるよ。」ルミエールの髪の毛がすっともとの状態に戻る。少し冷静になったのだ。
「だから、ルミエールの光球体の中にいる僕の脳神経も活性化されるんだ…で、マインド座標が使える、ってこと」
「そういうことか…」ルミエールがようやく納得してうなずく。
タクミがほっとして、「…てか、VRBの時も、僕がマインド座標を使ってたの、ルミエールは、知ってたんじゃないの?」
「え?そうだっけ…」
「ルミエールはもうわかってるんだと思ったよ…だから、言わなくていいと思い込んでしまった。そこは謝るよ」タクミがルミエールに頭を下げる。
すると突然、ルミエールがはっとして、顔が急に赤くなった。
「もしかして、タクミ、私の心…キャー!違う違う!それは誤解!絶対違う!」
その声に共鳴して、地面が大蛇のように揺れ動いた。飛び上がったレイヴンが、そのまま倒れ込む。彼は白目を向いて気絶した。
「ルミエール、落ち着いて!…いくらコヒーレント場の中でも、僕が意識を向けない限り、相手の心は読めないんだよ」
「それ、ホント?」
「うん…だから、ルミエールの心は、そもそも読んでないよ」
「それ、信じていいの?」
「うん…」タクミがとぼけ顔で答えるが、ルミエールは見ていなかった。
「良かった!タクミ、それを先に言いなさいよ!」ルミエールはようやく笑顔になる。「…賢いタクミ君なら、もし、私の心の中を勝手にのぞいたら、どうなるか、わかってるもんね?」ルミエールがじっとタクミの顔を見てそう言い放つ。
「はい…もちろんわかってます」タクミは急いで返事をした。
「よろしい!…じゃ、レイヴンだっけ?あれ、あんたどこに…」ルミエールが気絶しているレイヴンを見つける。頬を叩くと、彼がはっと目覚める。レイブンは、自分を覗き込むルミエールの顔を見て、ギャアアア、と悲鳴を上げる。
「なに?私の顔になんかついてる?」ルミエールは不機嫌な顔をする。
「い、いえ!滅相もありません!」震える喉で、ようやく声を絞り出すレイブン。
「ま、いいわ。で、話す気になった?」
「そりゃもう!何なりとお聞きください!」ルミエールの言葉に、レイブンは泣きながら感謝した。そうすれば、この恐ろしい状況から解放されるに違いないと思ったから。
で、TOTOの黒幕とそのアジトが、あっさり判明した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます