第13話 魔王とロビン

「マオ!」

 魔王が消えた後も、光の軌跡は止まらなかった。ロビンは、その魔法としかいいようのない光のほとばしる方角に走って行く。

「マオ! マオ!?」

 

 草をかき分けて顔を出すと、――そこに倒れていたのはジェイドと、ルビーだった。二人とも無事のようだ。ロビンは二人の身体にすがりついた。

「ジェイド様!」

「…………はっ!」

 しばらくして、ジェイドがはっと目を開いた。

「底なし沼にはまっていたはずだったのにどうして僕は倒れているんだ?」

「底なし……沼?」

 ロビンはあたりを見渡した。見る限り、沼とは言いがたい、ただの平地だ。ついた膝の下には岩があたり、ごつごつしている。

 ジェイドとロビンが顔を見合わせる横で、ルビーはゆるりと首を横に振った。

「分からない。奇跡が起きたか、二人そろって同じ夢を見ているんだ」

「僕は溺れて……君に確か……酷いことを……」

「……忘れたな」

 そして立ち上がると、流麗な所作で服の汚れを払い、ジェイドに手を差し伸べる。

「大丈夫かジェイド。けがは」


(さすがルビー様。いつ見ても……じゃない!)


「あの」 

 ロビンはうつむいて言った。

「わたくし……マオ様を見失ってしまいました」

 どこに行ったかも分からない。そもそも再び会えるかどうかも分からない。ひょっとしたら屋敷にいて「マオだよ!」と抱きついてくるかもしれないけれど――

「申し訳ありません」

 ロビンは頭を下げた。マオはいっときとはいえ、セインレル家の三男なのだ。

 しかし。

 しかしジェイドは。

「マオとはだれだ? 初めて聞く名だが。ルビー、君の知り合いか?」

「いえ、存じ上げません」

「っ……!」


 ロビンの目の奥が熱くなった。

 新衣装に喜んでいたマオ。花冠を作っていたマオ、ロビンにべったりだったマオ。

 うっとうしいと思うことこそあれ、こんな風に、後悔する日が来るなんて思わなかった。もっと知っておけば良かった。もっともっと相手してあげればよかった。


『ロビン』

『大事にする。約束する。幸せにする』


 うそつき。と唇のかたちだけでつぶやく。ロビンは泣きそうな自分を認めたくなかった。

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