第12話 BUG

 疾駆する馬の上でロビンは魔王にしがみつき、声を張り上げた。

「どうしてジェイド様がしっ、死にかけてるってわかったの!?」

「だまって、舌を噛んでしまうよ」

 魔王は低く言って鞭を振るう。高い嘶きが森の中に響き渡る。


「ぼくはシステムと繋がっているからね。どこまでもシステムそちら側だ。だけどこうして、わがままを通すこともできるんだけど」

「あんたって、な――」

 全てをわかったふうに、魔王が答えた。

「ぼくはきみたちが言うところの、バグ。排除されるべきもの。ぼくが干渉することで、物語は変わる。今回みたいに」

 ロビンは魔王の背で揺られながら、少しずつ考えをまとめていく。


「……あんたがいると世界がごっちゃごちゃになるってこと?」

「すこし違う、」

「何が違うっていうの」

 魔王は馬を止めてひらりと飛び降りた。続こうとするロビンを手で制して、魔王は唱える。

『干渉』

 パァン!

 遠くの方で何かが光る。


「今何をしたの!?」

「運命をスイッチSwitchした」

 魔王は淡々と言った。スイッチ……交換。

「行けば分かるよ、ロビン」


 それから魔王はロビンを軽々と抱き下ろした。出発前に抱き上げてくれたように。


「――生きているだけで、ぼくは世界をかき回してしまう」

 魔王は振り向いた。青い瞳がロビンを見――

「それでもに、逢いたかった」

 ロビンの向こう側を見透かすように、細められた。

「ずっと逢いたかったよ」


――誰に?


「――ごめんね」

 魔王の低い声がささやいたかと思うと、彼は輪郭が何重にもぶれ――霞むようにして、すっと掻き消えた。

「え?」

 ロビンの戸惑いだけが森の中に響く。

「魔王? ねえ、魔王。……マオ!」 

 馬と取り残されてしまったロビンは空を見上げた。


「どこへ行ったの、マオ!」

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