第二章 魔王様、よろしいですか。
第8話 現状整理、よろしくて?(セカンド)
『約束のユーフォリア』には、もとから六つのエンディングが用意されている。
誰とも結ばれないノーマルエンド。
侯爵家長男ジェイドエンド。
次男、ヴィクターエンド。
庭師、ジャックエンド。
勇者、リヒトエンド――通称トゥルーエンド。
そして、最後は言わずもがな、バッドエンドだ。
「どうしたのロビン。そんな顔して」
例によって鏡の前でリジーが髪を直していた。彼女は何よりも自分の外見に気を遣っている。彼女と鏡の前で会うのはしょっちゅうだ。
というのは建前で、リジーというモブキャラは主人公ロビン(名称変更可能)と攻略対象の間を取り持つ役割を果たしている。何か困ったら鏡の前、リジーのところに行けば、攻略対象についての情報を探ることができるし、ヒントをもらえることもある。
まあ、そのヒントが全部引き出せるかどうかは、五周もしているから確かめてあるのだけれど。
プログラムされた台詞を吐き出したリジーに対して、ぐったりしたロビンはか細い声で尋ねた。
「リジーのメモ帳を見せて」
「いいわよ」
リジーからメモ帳をひったくる。思った通り、「リジーのおたすけ」を選択したときに出てくる情報がメモ帳にびっしりと書かれている。
「マオさまの情報はある?」
「あるわよ」
マオ・セインレル 15歳
黒髪に青い瞳。後妻の二番目の息子。ジェイドの異母弟でヴィクターの実弟。
好きなもの、ロビン。
次男のヴィクターと全然似ていないではないか、というツッコミが先に出た。その下のどうしようもない情報は無視することにしたからだ。
「……これだけ?」
てっきりほかのキャラクターと同じように、スキンシップや話が進むにつれ情報が開示されて行くものだと思ったのだが。
(もうかなーりスキンシップはしたと思うんだけど……)
マオのべったり具合ときたら、とにかく近い。あの女たらしのヴィクターが紳士的に見えるくらいには近い。食事の時も、着替えの時も、とにかく「ロビンがいないといやだ」。……風呂に呼ばれたときにはさすがに引いた。さすがにそれは固辞させていただいたけれど……。
(いやかなり、かなーり、私は努力していると思うんだけど⁉)
求めに応じ、メイドとして仕事をこなし、合間にささやかれる甘い言葉を真摯に受け止める。いつなんどきあの鎌を出されるかわからないし、一応決死の命乞いをした手前、努力だけは自分に課していたロビンである。
しかし、こんなに頑張っているのに、情報の一つも無いのはどういうことだ。
(魔王自体が原作にいないからかな……本人も言ってたしなぁ……)
あんまりすぎる。この状況がいつまで続くのか見えない上に、あのマオの寵愛ときたら。
(あのマオに、寝台に呼びつけるだけの知識がないのだけが幸い……というか……)
まるで子供が覚えたての恋愛のまねごとをするみたいな、駆け引きとはほど遠いまっすぐな愛情を受け止めるだけの度量が、ロビンには無い。ロビンは途方に暮れていた。
(逆に、学習されても困るなぁ……どうしよう)
ロビンは思わず、リジーの瞳を見つめた。
「リジー、恋愛ってどうやるんだろう」
「そうよね、モテるロビンはつらいわ。……迷っちゃうわよね」
リジーは何度も聞いた言葉を吐いた。仕方ない。彼女もそういう存在なのだから。
「でも、自分の気持ちに素直になるのが一番」
微笑むリジーに罪はないが、ロビンは彼女の下にあるはずで存在しない茶色い吹き出しを殴りつけたくなった。
(なーーにが自分の気持ちだァ!)
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