第4話 誰やおまえ!
この男、知らない。
見たことがない。
五回ゲームを繰り返したというのに、彼を知らない。
(いやいやまっておかしいでしょ? 資料にも抜けがあったってこと?)
しかし、記憶にある限りのありとあらゆる資料を思い返してもこんな男はいなかった。強いて言えば、本当に強いて言えばだけれど、顔つきが勇者に似ている。勇者の色違いのような感じもするが……。
「えっと、ご兄弟とかいらっしゃいます?」
見知らぬ男への第一声はそれになってしまった。
(いやそんなことよりもっともっと聞くことがあるんじゃないの、ロビン!)
ロビンは内心ツッコミを入れる。しかし美男はゆるりと首をかしげて、何かを思い出そうとするかのように空をみつめたあと、ひとこと、
「わからない」
といった。
「そもそもぼくに親兄弟が居るかどうかは開発者しか知らない。開発者が知らないことは、知らない」
「へえ、かいは……開発者ァ!?」
ロビンはのけぞった。
「いま開発者って言った?」
「女神とも言う」
「開発者って言った!」
ロビンは名前も知らない美男の胸ぐらをつかんだ。
「どういうこと? あんたはだれ? 開発者? 私は何でここに……」
「名前はない」
薄い唇が無感情にそう告げたかと思うと――ロビンの指を絡め取ってその爪に唇を寄せた。
「名前はないけど、愛はある」
「は?」
(何を言ってるんだこいつは!)
「ぼくに、愛があったから、君はここにいる。わかった?」
「何もわからない!」
「言うことなすことすべてが正解である」みたいな美しい顔の男は次から次へと意味不明な言葉を投げつけてくる。ロビンはそれを避けられない。必死に美男から距離を置こうとするのだけれど、がっちり腰に回された腕は意外にたくましい。
「ロビン。今のぼくをどう思う。君のすきな顔をしている?」
「待って待ってちょっとまって意味がわからないんだけど!」
ロビンはキスせんばかりに顔を近づけてきた男の鼻っ面を押しのけた。
「だから、あんたは誰なの!? 名前がないなんてうそ、この世界は乙女ゲームで、開発者がいて、だから、――モブキャラにだって名前がついてるっていうのに、そんなの、じゃあ……」
誰なの。そう言いかけたそのとき。
「――魔王」
低い声を使われた瞬間、ロビンは驚きのあまり動きを止めた。
「……は? まおう?」
「魔王は、役職であって名前ではない。勇者が名声であるのと同じ」
嘘を言っているのか、自分のことを魔王だと思っている隠しキャラか、それとも――ありとあらゆる可能性を模索したけれど、魔王と名乗る男の言葉には妙な説得力があった。何より。
「あんたは、この世界が乙女ゲームであることを知ってる……?」
「うん」
魔王はロビンのこめかみに唇を寄せた。またキスされた。しかしロビンの頭の中は混乱していた。
(どういうこと……?)
「これでわかった? ぼくのこと」
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