フェアリーブルーム3
さて明日この施設内に入った感想ですが、天井からは自然光に近い光が出ていて暗い感じはなく、奇妙な清潔感があります。
ここはどうやら上の遺跡のようなエーテル製造所ではありませんね。造りを見る限りは病院……もしくは研究所、収容所のようなところだったのではないかと思います。
窓ガラスが貼られた部屋がいくつもあって、室内には白骨死体が転がっているのも確認できました。
風化しているためにグロさはありませんが、外に出ようとした形跡があり、扉に無数の爪痕が残っています。
ちなみにドアはすべて閉まっていて、部屋の中には入れません。
まあ見る限りは白骨死体と風化した服ぐらいしか室内にはありませんし、閉じ込められた人間のいる部屋に何か希少なものがある……というのも考え辛いです。そもそも呪われそうであまり入りたくありません。
魔獣は出ませんが、この中は明らかに異常です。ここは人の正気とか倫理感とか、そうしたものを置き去りにしている何かを感じます。正直な感想を言わせていただきますと、もう引き返して協会に引き継ぎたい気持ちでいっぱいなのです。
けれども、そうした私の想いは叶いそうもありません。なぜなら……
「ガッ」
突然のラキくんの声と共にサーチドローンの反応があったのです。つまりは私たち以外に動いている物体が存在しています。
そして通路の奥から出てきたのは……アレは人形でしょうか?
太ももは太く、膝から足先までは細くバッタのようで、腕は左右二本ずつの四本で、それぞれ大きなナイフを持っています。頭部にはギリシャ神話の彫像のような人間の顔の仮面が付けられていますね。
ただ、どうなんでしょう。明らかに戦闘を前提にしているような格好ではありますが、魔獣ではありません。もしかすると施設内のナビゲーションロボットのような存在なのかもしれません。ああ見えて結構友好的な反応をしてくれるかも……あ、短剣を構えて走ってきました。アレは無理ですね。
「ラキくん、私が動きを止めますので対処をお願いします」
「ガッ!」
ラキくんも戦闘モードです。
そして私は迫る四つ腕人形の周囲に10の収納ゲートをすべて展開しました。今の私の収納ゲートの射程距離は正確さを求めるなら5メートル程度。近づかれる前に動きを止めることは十分に可能です。そして場合によっては収納ゲートを破壊されて突破されることも想定していましたが、四つ腕人形はぶつかって弾かれましたね。大丈夫なようです。
「キュルッ、ガーーー!」
続けてラキくんが飛びかかり、私が収納ゲートを解除するのと同時に両腕を振り下ろして四つ腕人形を床に叩きつけました。バキリと床が砕け、人形がうつ伏せに倒れます。
「やりましたねラキくん」
「フーーー」
おや、倒したと思ったのですがラキくんは戦闘モードを解きません。見れば四つ腕人形が震えております。どうやらまだ動ける模様。となれば……
バキャンッ
私は即座に石砲弾を撃って頭部を破壊しました。ほぼ同時に四つ腕人形がナイフを持つ四本の腕を振り上げていましたので、私の攻撃はギリギリのタイミングだったようです。位置関係からするとラキくんが攻撃されて怪我をしていたかもしれません。怖いですね。
「フーッ」
あ、また微妙に動いているのでラキくんが踏み潰しました。今度はピクリとも動きませんね。完全に停止したみたいです。
「ありがとうございますラキくん」
「キュルッ」
さてと、まずは持ってたナイフ四本は危ないので回収してしまいましょう。サイズ的にちょうど私の収納空間に入るようです。石砲弾の方が面積がある分破壊力はあるでしょうけど、こちらの方が刃先の一点集中により貫通はしやすそうですね。まあ、折れちゃうでしょうから撃つのは勿体無い気もしますが。
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【次回予告】
沈黙の番人は封印破りし咎人を刃で出迎えた。
対する善十郎の答えはひとつだけ。それは生物にとっての原初の返答。即ち暴力。すべてに通じる唯一無二の交渉術。
そして奥へと進む善十郎が目にするは生命倫理の終焉、尊厳を捨てた悪虐の果て。或いは希望。
それは無垢なる名もなき花だった。そう、彼女の名は……
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