フェアリーブルーム2

 暗いパイプの中を突き進んでいくと、直滑降に落ちるように真下にパイプが伸びておりました。降りる方法がなければここで試合終了でしたが、私は収納ゲートを足場にして降りることが可能なのです。

 トン、トン、トンと階段のように並べてゆっくりと降りていきますが思ったよりも深いです。

 実のところエーテル製造所はダンジョンではよく見かけるもののようでして、構造も大体似ているとのこと。ですので私も今回は事前に施設の構造を予習しておりました。

 だからこのパイプもエーテルを外に流すものだと思っていましたし、たどり着く先はエーテルタンクのひとつで、エーテルが固まった高濃度のマナジュエルでも転がっていれば……なんて期待もしてたのですが、一番底まで辿り着いた私が目にしたのは大きな扉でした。


「キュル?」


 ラキくんも首を傾げていますね。

 パイプの先に扉がある。つまりこのパイプはエーテルを流すためではなく、人が出入りをするためのものだということです。それはつまり、どういうことでしょう? 残念ながら私にはその意味が分かりません。

 もしかしてこのパイプはエーテル搬出用に見せかけたダミーで、元々ここは人が通るためのものだった……ということでしょうか?

 なんだか犯罪の臭いがしますね。この遺跡を造った異世界人はここで隠れて何かをしていたのかもしれません。

 覚醒施術によって得られるスキルの中にはこの直滑降のパイプを降りることも可能な浮遊や飛行のスキルなどもあります。異世界人であればパイプの中を移動するためのスキルを持っていたり、専用の魔法具を用意することも可能でしょうし、ここを通路とすることもできたのでしょう。


「ラキくん、大きくなっておいてもらえます? この先、危険かもしれませんので」

「キュルッ」


 私の指示でラキくんが2メートルサイズに肥大化していきます。これで扉の先でいきなり襲われたとしても対処は可能でしょう。とはいえ、まずは扉をどうにかする必要はありますが……かなり頑丈そうなので石砲弾の連射で試してみます。


 ズガガガガンッ


 ズドーーーーン


 石砲弾四連射を放ちましたが、それでも扉は砕けませんでした。けれども、支えている左右の柱は違ったようですね。柱がボロボロと崩れて頑丈な扉が大きな音を立てて後ろに倒れました。

 ゴォーーーンという音が響き渡り、思わず身構えてしまいましたが、何も起こりません。

 中から何かが飛び出してきたりもしませんし、埃が舞って私とラキくんがゴホゴホしたぐらいです。

 そして扉の先の様子ですが、そこそこ風化こそしているようですがが荒らされてはいない模様。恐らくここは未発見エリアなのでしょう。

 実のところ、こうした施設を発見した場合には探索協会へと即時報告が推奨されています……が、これは絶対ではありません。以前にそうした対応を強行しようとした某国が上位探索者の方々によってずいぶんと痛い目に遭わされた結果、あくまで推奨という形に落ち着いたのだとか。

 なので私が探索することを誰も拒むことはできないのですよね。ふふふ。それでは未知への一歩を踏み出しましょう。




———————————




【次回予告】

 その先にあったのは狂気であった。

 男の精神を蝕むほどの人の善意悪意。その成れの果て。

 瞳なき骸の視線が善十郎を貫く時、ソレは目覚める。

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