ルーザーズパニック6
「なんだよ。ユーリ、いたんなら声かけろよ。つーか加勢しろよな」
私がユーリさんとお話をしていると、眼鏡の方と言い争いをしていた獅子顔の方が声をかけてきました。
「あんれ、烈。門倉さんとの話し合いは終わったの? て、門倉さんもういないし」
「逃げやがったんだよあの野郎。クソッタレ。人の獲物、横取りしておいて。何様だってんだ。糞インテリが」
先ほどの話からすると、どうやらダンジョン内で狙っていたものを横取りされた……という感じでしょうか。随分と苛立っておられますがユーリさんとはお知り合いの模様。そして話しているおふたりを見ていた私に烈さんの視線が向けられました。
「そんで、そっちのおっさんは誰?」
「大貫さんだって。ここの新しい住人……でいいんだよね?」
「そうですね。大貫と申します。よろしくお願いします。烈……さん?」
「ああ。烈でいい。というかおっさん。俺のこと知らねーのかよ?」
というと有名人なのでしょうか。ここは都内に近いですし、ネームバリューのある方が泊まっているようですね。私、よく許可が下りましたね? まあこんな職業だから入れ替わりは激しそうですが。
「はっは、烈も精進が足んないなー。まあ、あーしのことも知らなかったほどだからねえ」
「すみません。ダンジョンについては疎くて。探索者になってからまだ一週間程度ですし」
「は? マジで? 何でここにいんだよ?」
烈さんが呆れた顔をしています。まあ、それはそうでしょうね。本来ここに入れる探索者はレベル20を超えた実績のある者だけです。私はレベルも実績も満たしていません。
「探索協会の計らいですね。このラキくんが希少種でして」
私は探索協会が用意してくれた説明を口にしました。嘘をついてはいませんしね。ラキくんは従魔ではなく召喚獣というだけで。
「普通のレッサーパンダにしか見えねえが。いや、レッサーパンダは一般人が飼っちゃ駄目な生き物だったよな?」
「そうだねー。だから似てる魔獣なんだろうけど。けどおじさん、まだ低レベルでしょ。収入ないとここに住み続けるの難しいんじゃない? お金持ちだったり?」
「いえいえ。前職は普通にサラリーマンでしたし、会社が潰れて探索者になった口でして。ただ収入に関しては問題ありませんよ。私もそれなりに鍛えてますし」
「ウッソー」
失敬な。見てください、この力瘤……はありませんね。レベルが上がってもムキムキにはなりませんでした。烈さんがムキムキなのはキチンと鍛えているからでしょう。
「へぇ。腕に自信あんなら俺とやってみっか、おっさん?」
「? 探索者同士の争いは禁止されてるはずですが」
探索者は人の形をした暴力装置とも言われております。そしてそれは事実です。普通の人間ではどうあっても勝てないほどの力の差が存在しています。だからこそダンジョン外での力の使用にはさまざまな制限と罰則がついて回ります。当然探索者同士の私闘など許されるはずもないのですが……
「ここは探索者専用のホテルだ。で、ここって俺らのための訓練施設なんぞも用意されてるんだよ。遺跡から発掘された魔法具を使って安全に模擬戦ができる設備とかな」
ほおほお、それは少し興味深いですね。
「ちょっ、烈の馬鹿。そんなん無理に決まってるでしょ。どう考えてもおじさん虐待じゃない。弱いものイジメハンターイ」
「わはは、やってみなきゃ分かんねえだろうが」
ユーリさんの言葉に笑って返している辺り、どうやらただの冗談のようです。けれども、けれどもですね。お誘いを受けたのは事実なわけです。だったら選択する権利は私にもあるのですよね?
「そうですね。やってみなければ分かりませんよね」
「あん?」
私の返答が予想外だったのでしょう。烈さんの目が鋭くなりました。舐められた……と思っているのかもしれません。身の程知らずと見られたかもしれません。
けれども彼は高レベルの探索者。私が最高の探索者を目指すのであればいずれは乗り越えるべき壁のひとつです。そして安全に強者と戦えるという経験は今後のための必要かもしれません。だから……
「ひと勝負だけお願いできますか、烈さん?」
———————————
【次回予告】
台場烈。この男、まごう事なき強者の器。
けれど油断することなかれ。
お前が対峙せしは狂犬。
目を離せば容易に喉元喰らいつく。
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