ルーザーズパニック5

※作中で現代ダンジョン定番の配信者が登場しますが、おじさんが配信者になる予定はありません。ちょいとお手伝いぐらいはします。




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 荒ぶるラキくんをなだめてから川越メイズホテルの中に入った私は受付で手続きをして、今日から泊まる部屋へと案内してもらいました。

 ラキくんに関しても事前に申請していましたので特に問題はないとのこと。ただし部屋やモノを壊した場合の弁償代はそれなりに高くつくそうです。

 もっとも従魔は基本的に精神の部分で使役者と繋がっています。そのため、粗相はあまりしないし、ペットよりも扱いは楽なんだとか。ラキくんは召喚獣ですが同じような感じではありますね。従魔と違って食事は必要ではありませんし、召喚を解除して姿を消すことも、今現在そうしているように幼体のエコモードになることも可能という点で、従魔よりも手がかからなくはありますが。

 それから私は持ち込んだ荷物を部屋に置いて、ラキくんを背負ったままラウンジに向かうことにしました。

 基本的にこのホテルの宿泊客のほとんどは探索者とその関係者なのだそうです。つまるところ、みんな仕事仲間です。新人である私では持っていない有益な情報を聞いたり、横の繋がりができたりすることを期待したのですが……


「おいコラ。テメェどういうつもりだ?」

「どういうも何もないだろう。探索者は先行独占が基本。終わった後に言いがかりをつけられてもね」

「言いがかりだぁ? この盗人野郎が。こっちのスケジュールを狙ってこそこそ動きやがってよぉ」

「言いがかりだと言っただろう。元々あのダンジョンの探索を僕らも予定してただけさ」


 ラウンジにはライオンを擬人化したような金髪の巨漢の男性と、すまし顔をした細身で眼鏡をかけた男性が何やら言い争いをしておりました。どうやら私は探索者同士の修羅場に遭遇してしまったようです。


「あー、そこのファンシーな従魔連れてるおじさん。今、あそこ近付かない方がいいよぉ」


 そして言い争いをしている彼らを呆然と見ていた私に近くのソファーに座っていた女性が声をかけてくださいました。妙に露出度の高い服装とファンキーと言っていいのか、派手な化粧を決めた女性の方です。まるでアイドルのような容姿をしていらっしゃいますが、纏う気配からして探索者の方なのでしょう。


「どーもー。あーしはユーリって言います。しがないメイチューバーをしている者っす」

「ご挨拶ありがとうございます。私は大貫と申します。探索者をしております。こちらはラキくん。私の従魔です」

「へー、かっわいいー。よろしくねーラキくん」

「キュッ」


 ラキくんが手を挙げて鳴いて挨拶を返しました。挨拶は基本ですね。


「おー、ラキくん賢い。しかも結構強い?」

「はい。ダンジョン内では助けられていますよ」


 一緒に潜ったのはまだ一度だけですが、ラキくんは優秀です。戦闘力も、積載力も、探知能力もあります。サーチドローンと併せればそうそう接近してくる魔獣に気付かないということもないでしょう。

 それにしてもメイチューバーですか。確かダンジョン専門の動画投稿サイト『メイチューブ』の配信者をそう呼ぶのでしたね。前職ではダンジョン関係を忌避しておりましたので私はあまり存じ上げませんが。


「ふーん。ところでさ。おじさん、あーしのこと知らない?」

「申し訳ありません。まだ新人ですのでダンジョン関係のことについてはトンと疎くて」

「新人て、その年で探索者始めたの? それにあーし、これでもテレビにもそこそこ出てるんですけどなー。精進しなきゃですなー」

「ははは、先月まで仕事一筋の面白みのない生活を送っていたものでして。これからはそうしたメディアもちゃんと見てみようとは思っているのですが」

「そーだねー。情報の有無が生死を分けることだってあるわけだからさー。おじさんもその年で探索者始めたんならちゃんと色んなところにアンテナ張っといた方がいいと思うよ?」


 確かにユーリさんの言う通りですね。

 それに最高の探索者を目指している以上、比較対象となる競争相手のこともしっかりと把握しておかねばなりません。今後はメイチューブも視聴して、情報収集にも力を入れるべきでしょうね。




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【次回予告】

 強者との出会いに善十郎は震え、与えられた選択に歓喜した。

 身の程知らずと思われようと、哀れな愚者と蔑まれようと、善十郎にとってはそよ風の如く。

 ただ極上の獲物を前に牙を剥く。

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