ルーザーズパニック7
「たく、なんなんだあのおっさんは?」
俺の名前は台場烈。鬼肉と書いてオーガニックと呼ぶクランに在籍している探索者だ。クラン名がふざけてる? 俺もそう思う。だがこれは目の前のユーリの、ウチのリーダーが名付けたものであって、断じて俺のセンスじゃねえ。
そんな俺は現在ちょっと苛立ってる。狙っていた虹孔雀の討伐を昨日にグランマ騎士団にやられた上、騎士団のメンバーである門倉と遭遇して言い争いになったからな。
あのクソメガネ。「君とは付き合ってられないな」とか肩をすくめて去っていきやがって。思わず、あいつの脳天に俺のレッドヴァジュラをブチかます光景を幻視したがどうにか踏み留まった。今年のシーカーグランプリで吠え面かかせてやるからな。あのヤロー。
それでだ。門倉が去ったラウンジにユーリのヤツと一緒に場違いそうなおっさんが立っていやがった。
見た目は四十半ば辺りか。背負うようにしているレッサーパンダからは魔力が感じられたので多分ありゃ従魔だ。そんでそのおっさん、感じからしてレベルは10前後で普通に雑魚なんだよな。
従魔の方は分からないがおっさんはマジで弱い。レベル以前の問題だ。立ち振る舞いで普通に分かる。
問題はそのおっさんが俺に喧嘩を売ってきたことだな。いや売ったのは俺なんだが、まさか買うとは思わねーだろ。俺はオーガニックの烈だぞ。レベル48。ブラッドクォーツゴーレムとタイマンのステゴロで勝った俺だぞ。
「ちょっと烈ぅ。マージでやるの?」
「うるせえぞユーリ。ちょいと遊んでやるだけだよ。あのおっさんだって多分記念試合的なつもりだろ。大体、このコロッセオフィールドなら死にゃしねえし。そこそこ痛いけどな」
多少の痛みは勉強代だ。探索者なら安全に殺されかける経験が積めるだけでも得難いもんさ。それで心が折れたんならそれまでだ。
ただなー。何でか俺の本能はおっさんを妙に警戒してる。あんな冗談言うのも俺らしくねーし。あのおっさんからはなんかを感じるんだよ。もしかすっとレアスキル持ちか? まあ、だからって勝負になるたー思えないんだが。
「これは凄いですね。遺跡から持ってきたんですか?」
そして俺の目の前でおっさんが感心した顔で見ているのは四方に水晶でできた柱が置かれた石造りの闘技台。これは川越メイズホテルの地下に設置された遺跡産の戦闘訓練装置だ。
「そうだ。コロッセオフィールドって言うんだ。この中に入って起動させると魔力の膜が全身を覆ってダメージの肩代わりをしてくれる。と言ってもそれなりに痛いぞ。おっさんも無理せずに諦めてくれてもいいんだからな」
「いえいえ、お構いなく。せっかくいただいた貴重な機会ですので。あ、ラキくんは離れていてくださいね。イッチニサンシ」
緊張感のねえ。いや、肝が据わっているというべきか。この機会を貴重と考えている辺り、ちゃんと探索者として考えてるのかもな。知らねーけど。
「じゃあラキくんはあーしのところね。ほっほー、モッフモフだー」
レッサーパンダが素直にユーリのところに行って抱きつかれやがった。いいな。俺も従魔欲しいんだが、テイムは才能と相性だからな。俺にはねえ。世話だって馬鹿になんねーし、戦闘用に躾けるには時間もかかるからテイマーでもなきゃ精々がペット扱いだ。まったく羨ましい。
「ハァ、ユーリと違って俺の相手はおっさんか。まあいいや。さっさとやろうぜ」
そんで闘技台に上がった俺らの身体を淡く青いオーラが包み込んでいく。実戦よりも緊張感は落ちるが探索者同士で戦える機会ってのはそう多くないし、これがあるから俺はこのメイズホテルに部屋を借りてるようなもんだ。こんなおっさんと戦うってのは想定外だがよ。
「そんじゃあ始めるが本当にいいのかおっさん? トラウマになっても知らねーぜ。それに武器とか使わないでいいのか?」
「構いません。そちらも無手のようですし。ドーンとお願いします。ゴホッ」
おい、自分の胸を叩いて咳き込むな。調子の狂うおっさんだな。大体素人相手に武器なんて使うかよ。俺の武器レッドヴァジュラなんぞ喰らったらマジでトラウマもんだぞ。力入れればこの魔法具の防御くらいなら抜けちまうしな。
「じゃあふたりとも始めるよ。位置について」
ま、さっさと終わりにして、部屋に戻るかね。
「試合開始!」
「は?」
目の前におっさんがいた。
何? 何が起こった?
ドゴンッ
「ウゴッ」
腹に何か突き刺さったような衝撃が走って……お、おおお!? ウッソだろ。体が吹っ飛びやがった。今のは掌底か? おいおい。こいつ、三味線弾いてやがったのか!?
「ざっけん……あ!?」
俺が咄嗟に踏み留まっておっさんに突撃しようとしたところで見えない何かに当たって身体が止まった。カッテエ。なんだよ、これは!?
「クソッ、何がどうなって……ハァ?」
止むを得ず、一歩下がろうとしたところで背中にも何かが当たったのが分かった。これも動かねえ。駄目だ。分からねえ。なんだ? このおっさん、何をした? というか
「なんで懐にいんだよテメェはッ」
気がつけばおっさんが俺の目の前にいて……おっさんの手のひらが俺の腹にトンッと当たった次の瞬間に衝撃が連続で襲ってきて、俺の意識は完全にブッ飛んだ。
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【次回予告】
哀れなり台場烈。無惨なり台場烈。
敗者の末路は電子の海へと流れ、消せぬ刺青となって漂う。
そして世の無情を感じる善十郎に女はとある提案をした。
それは死神を誘う灯火であった。
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