第二章 妖精女王編

ルーザーズパニック1

『それでは安全安心を旨に、素晴らしい探索者生活をお楽しみください』


 探索協会埼玉支部を出た後、私は再び吉川ゲートへとやってきました。

 本日探索するつもりはありませんでしたが、召喚獣を喚び出せると聞いては試さずにはいられません。沢木さんのお話によると召喚獣を保有する召喚主は命を狙われる危険もあるのだとか。

 召喚獣は召喚主が死なないと別の相手に主人を移譲できないそうですから、欲しい方が狙ってくるのも仕方のないことなのでしょう。それは見方を変えれば、それだけ召喚獣がレアだということです。テンションが上がります。

 また命を狙われるということは、それに対抗できるだけの力も身につけなければいけません。ダンジョンの中は弱肉強食。ダンジョンの外も同様です。だからこそ私は召喚獣を求めて……

 いえ、必要に駆られている等という野暮な話はいりませんね。あの巨大レッサーパンダさんが喚べるのです。私の仲間になるのです。召喚する理由はそれだけで十分ではないでしょうか。

 そんなわけでダンジョンに入った私は人気のない開けた場所までやってきました。ここでなら最悪再戦することになっても対処が可能です。

 ちなみに召喚獣の喚び方は、右手の甲の刻印に向かって決めた名前を喚ぶだけで契約は完了するとのこと。簡単ですね。そして私が決めた名前は


「ラキ!」


 です。ラッキーのラキ。ここ最近の下がったり上がったりしている私の運を上昇させる意味も含めてラキくんの名前を導き出しました。その私の声に呼応してレッサーパンダのマークの刻印が輝き出します。


「あなたの名前はラキです。さあ出てきてくださいラキくん! カモーン!」


 たった今、私とラキくんと思われる存在とがカッチリと繋がった感覚がありました。テンションが上がります。さらに目の前に魔法陣が現れて周囲から活性化して光の粒子となった魔力が集まっていきます。


「キュルーーーー!」


 獣の咆哮が洞窟内に響き渡ります。

 そうして魔法陣の中から光が凝縮されて物質へと変わり、ラキくんは巨大なレッサーパンダの姿となって顕現しました。ほぉ、これが召喚術。出現した巨大レッサーパンダの全長は大体2メートル。私では見上げるような大きさではありますが、最初に出会った時よりも少し小さいようですね。


「キュル?」


 おや、少しばかり首を傾げている私を見て、ラキくんも首を傾げてきました。可愛いですね。ふむ、ラキくんの思考が頭に流れ込んでくる感覚がありますよ。


「ああ、すみませんラキくん。何だか以前に見た時と大きさや纏っているオーラのようなものが違うように感じられまして……少々気になってしまったのですよ」

「キュル……」


 私の言葉にラキくんが頷きます。

 ラキくんは喋れませんが私の言葉は理解できているようです。それどころかラキくんの思考が私の中に流れ込んでくるのも感じます。


「キュル、キュルル!」


 ほうほう。そういうことですか。ラキくんの考えも鳴き声に乗せて私は理解できるようです。これが召喚というものなのですね。便利ですね。


「なるほど。召喚獣の強さは召喚主の強さに準じるのですか。だから私自身がレベルアップしないと以前のような強さは得られないのですね」


 私の言葉にラキくんがブンブンと首を縦に振っています。ふむ、ラキくんはかなり賢いようです。




———————————




【次回予告】

 赤き悪魔の存在は男を好奇の目に晒すのには十分だった。

 女の悲鳴が暗き地の底で響き渡り、善十郎は己の所業に恐怖する。

 そして男が地上に戻った時、赤き悪魔は何を思い、何を成すのか。

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