バーサスレッサーパンダ6

「大貫さん、あなたはまだダンジョン探索四回目のはずですよね。トラブルに愛され過ぎてませんか?」


 巨大レッサーパンダを倒した翌日、私は探索協会の埼玉支部にお邪魔しておりました。

 ちなみに巨大レッサーパンダは魔石を落としませんでしたが、エーテル結晶はそこら辺に結構残っていたので四十本入手し、、また帰りに遭遇して倒したマナタラントの魔石も合わせて八万円でした。マナジュエルは案の定というべきか、すべて食べられていたようです。残念です。あとレベルも上がりませんでした。あのクラスの相手なら5レベルくらいは上がっても不思議ではないと思っていたんですが。

 そして私が支部にいるのは私の担当である沢木さんにご相談があったからなのですが……沢木さん、どうやらオコのようです。

 

「オコじゃありません。大貫さんが無茶し過ぎだから心配しているんです」

「おや、心の声が漏れていましたか。すみません。けれど私も無茶をするつもりはなかったんですよ。ただ運がなかったのでしょうね」

「結果だけを見れば運が良かったとも言えますけど……普通は死んでいますよ。いや、ホントもっと慎重になりましょうよ大貫さん。そりゃ遺跡をお薦めしたのは私ですけど、なんで遺跡から遠く離れた場所でエーテル結晶の狩場を見つけてマナタラントの群れやイレギュラーエネミーと遭遇してるんですか!?」


 イレギュラーエネミー、想定外の魔獣をそう呼ぶそうです。今回は巨大レッサーパンダのことを指しまして、以前から発見されていたマナタラントの群れは通常のエネミー枠として登録されています。

 ともあれ、私も狙ってこんな危険な目にあっているわけではないのですけれども……


「申し訳ありません。次からはもっと慎重にやっていきます」


 言いたい気持ちを飲み込んで謝罪するのも社会人のスキルというもの。

 まあ、今後問題を起こさなければ大丈夫でしょう。


「そうしてください。それと大貫さんの実績は過去の記録を見ても同レベル帯ではトップクラスのものです。パーティ参加でパワーレベリングしてるようなものを除けばですけどね」


 魔獣を倒せばレベルは上がる。上級探索者に依頼して高難易度ダンジョンでトドメだけを刺させてもらってレベルを上げる富裕層の人も多いんだとか。自分の力で成長していくことをせずに……というにはどうなのかとも思いますが、まあ人それぞれですね。


「ちなみにソロで活動している大貫さんには必要のない忠告でしょうが、協会はパワーレベリングを推奨していません」

「そうなんですか?」

「はい。そのやり方だと受け取った経験値と実際の身体が不整合を起こして最悪自壊する可能性があるという報告が上がっています。やって精々レベル5までですね」

「なるほど、ズルいことはできないんですね」


 私も気をつけましょう。まあ、どれだけレベルが上がっても私の身体能力はほとんど変わらないのですけどね。


「話がそれましたね。ともかく派手に実績が上がったということは大貫さんがそれだけ危険な目にあっているということでもあります。本当に危ないんですからね?」


 気をつけてくださいね……と改めて沢木さんが言うと、それから彼女は持っているタブレット端末に視線を向けました。そこには私の右手の甲の写真が映っています。ここに来る前にシーカーデバイスのカメラ機能で撮影したもので、可愛らしいレッサーパンダの絵柄が手の甲には描かれています。


「それで今回の相談はその刺青についてですよね?」


 沢木さんの視線が私の右手の甲に向けられます。そこにはタブレット端末のものと同じ可愛らしいレッサーパンダの絵柄がありました。この刺青は今もぼんやりと虹色に光っています。今回はその相談のために、私はここに訪れていたのです。


「はい。非常に愛らしいとは思うのですが、このままだとスーパー銭湯に入れないのですよね」

「大貫さん、今は入れないところばかりじゃないですよ。インバウンド需要もあって刺青オッケーなところとか、肌色のシールを貼ればオッケーなところとかも増えてるらしいですから……じゃなくて、大貫さんはそれが何かを知っていますか?」

「いえ、まったく。探索を終えて動画を提出して解析してもらったら、担当の方に連絡をして説明を受けるようにAIに言われまして。それで写真を送って、こうして相談に来たわけです」


 私の言葉に「そうですよねぇ」と難しい顔をしながら頷きました。

 どうやらこれ、珍しいもののようですね。それから沢木さんは意を決したような顔で私に向き合い、口を開きました。


「それはあまり一般的には知られていないものでして、名称を召喚紋と言います」

「しょうかんもん? それはもしかしてあの召喚ですか? ゲームにあるような?」

「そうです。召喚獣を喚び出すためのものですね」


 召喚獣!? 私の胸が高まります。ということは、これはまさかアレですか? あの巨大レッサーパンダが私の……


「これを見てください」


 若干テンションの上がってしまった私に、沢木さんはタブレット端末に映し出されている写真を見せてくれました。そして、そこには犬のような紋様が描かれた石が写っていたのです。




———————————




【次回予告】

 世界の真実、その一端が今明かされる。

 彼の凶獣は何処より来たのか。

 異国の地よりの招かざる者であったのか。

 謎はさらなる謎を呼び、善十郎の心を激しく揺れ動かす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る