バーサスレッサーパンダ5

「ギュルッ」


 時間遅延の効果が切れたのと同時に巨大レッサーパンダの動きが元に戻りましたが問題はありません。仰向けに倒れているその巨体の胸部と腹部、それに両肩部の四点に収納ゲートを開いてすでに固定しています。もう彼は動くことはできないのです。

 それと時間遅延の収納空間も再び構築できるようになりました。どうやら効果が切れるまでは再使用できない仕様のようです。そんなことを把握しながら頷いている私の前で、巨大レッサーパンダはまだ暴れています。


「ンガッ、ガ、ガー!?」


 振り上げる手。暴れる足。振り続ける頭。けれども私には届きません。残念ですが拘束を解くような真似は致しません。なぜなら……


「キュアッ、フゥゥウウウ」


 その瞳にはまだまだ闘志が宿っていますからね。

 そもそも格上。油断できる相手ではありません。もっともこちらも時間遅延の収納空間はすでに作り終えています。つまりはチェックメイトです。


時間遅延スロー!」


 再度時間を遅くします。

 もはや私の勝利は揺るぎませんが念には念を。

 ほら、近づいてみると怒って開いた口の中が見えますね。そこに照準をしっかり合わせるために指を二本差しにして向けます。そして口内へと私は収納ゲートを四つ開きました。


「!?」


 巨大レッサーパンダが目を見開かせています。

 あの巨体の口内であれば、直径8センチメートル程度のゲートならそれぐらいは入りますし、残念ながら彼では噛み砕くことはできません。まあ砕けたところで結果は同じなのですけどね。


「じゃあこれで終わりです」

 

 私の言葉が通じたのか、己の末路を理解したのか巨大レッサーパンダがさらにもがきますがもう遅い。直後に私は石砲弾四連射を放ちました。

 はい。見事に貫通しましたよ。首裏からブシャーって血が吹き出ました。三発目と四発目は穴を通り抜けて後方に飛んでいってしまいました。これなら二発で十分だったかもしれません。


「ギュァアアアアアアア」


 時間遅延の効果が切れ、巨大レッサーパンダが血を吐きながら崩れ落ちます。もちろん拘束の収納空間は解いていませんから倒れたままご臨終です。動物愛護団体からクレームが来ようと拘束は解きません。申し訳ありませんが私に油断はありません。死んだふりをして寝首をかかれるような無様は晒しません。


「…………」


 うん、動かなくなりましたね。

 フー、それにしてもこの巨大レッサーパンダ、相当格上の魔獣のようでしたが、それでも私の収納スキルなら十分に通用するようです。

 これはもう、最高の探索者になる日も近いかもしれませんね。ん、おや? おやおや?

 倒した巨大レッサーパンダの姿が光の粒子になっていきます。そして光が私の手へと吸い込まれています。

 もしかして強力な魔獣が相手の場合の経験値というのはこのような形で吸収されるものなのでしょうか。

 けれども少し、これは経験値とは感覚からして違うような……


 そして光が収まると私の右手の甲には、キラキラと輝くレッサーパンダの刺青が描かれておりました。非常に可愛らしい絵柄です。しかし、これは一体何が起きたのでしょうか?




———————————




【次回予告】

 戦いを経て善十郎は己の内に宿る何かを感じた。

 それは獣の鼓動。闘争の業火。死を招く灯籠。

 そして知者より告げられる残酷な真実は善十郎をさらなる闘争の渦へといざなうのであった。

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