クモクモバンバン4

「履歴を拝見させていただきましたがソロのままで一度目の探索で26200円、二度目には50410円の収益ですか。本当にやれているんですね。エーテル結晶メインならたまたまというの可能性もありますが……いえ、コボルトも倒しているとなるとそういうことでもない。どうやら節穴だったのは私の目の方だったようです」


 沢木さんがそう言って私に頭を下げてくださいました。沢木さんは確かに探索者を諦めることを勧めてはきましたが、意地悪で言っていたわけではなく、私の安全を考えての言葉だったはずです。だから私が怒る理由はございません。


「いえいえ。私の能力的には当然のお言葉だったと思いますよ。こうして稼げているのは役立たずだと思ってたスキルが思いのほか便利だっただけです」


 レベルが上がった今でも自分の拳でコボルトと戦えと言われたら一方的に殴り殺されてしまう自信があります。購入した槍だって一回も使っていませんし、鉈も戦闘以外にしか使用していません。

 収納スキルなしでの近接戦など私には無理でしょうから……いや、近接戦ですか。手のひらに収納ゲートを出して空気弾を撃てばもしかして気功使いの掌底のように扱えるかもしれませんね。ふむ、ちょっとカッコいいかもしれません。


「大貫さんの収納スキルですか。収納解除でコボルトを即死させられる威力の石を飛ばせる上に、収納ゲートが硬くて、それを足場にして高所も移動できると。収納スキルの存在強度が高いとそんなことも可能なんですね」

「あの、同じように存在強度の高い収納スキル持ちの方なら同様のことができるのではないですか?」


 私の問いに沢木さんが困った顔をして首を横に振りました。


「公的な記録においては収納スキルの存在強度が高いことで起こるのは収納能力の固定化と収納ゲートの硬度が高まることのみとされています。人が乗れるほど収納ゲートが硬くなることも、解除した際に殺傷能力を持つほどに内部のものを射出できるという記録もありません」


 沢木さんがそう説明してくれました。つまりオープンになっている情報の限りでは、収納スキルを私のように扱える方はいないということですか。


「けれども大貫さんのいう通りの能力であれば、吉川ゲートの水晶窟でなら効率よく収入を得ることが可能でしょう。実際、この記録から考えれば、当面はこのまま続けていた方が良いと思いますが」

「確かにそうなのですが、ちょっと自分のスキルが楽しくなってきまして。己がどれぐらいやれるのかを試してみたいといいますか……」


 自分でも子供みたいなことを言っている自覚はあります。ですがルーティンで作業をこなして稼ぐだけの生活では前職と変わりません。まだ人に言えるほどのものではないにせよ、私は最高の探索者を目指している身です。止まってはいられないのですよ。

 そしてそんな私の言葉に少しだけ呆れた顔をした沢木さんですが、それでも彼女は面白い提案をしてくれました。それは『遺跡の探索』です。

 なんでも吉川ゲートの水晶窟の奥にはあちらの世界の人間が使っていたと思われる遺跡があるそうなのです。それは確かに面白そうな話ですね。





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【次回予告】

 再び彼の地に足を踏み入れた善十郎。目指すは古の民の残した古代遺跡。

 そして闇に潜む獣たちとの狂宴は男の心に何をもたらす?

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