クモクモバンバン5

 沢木さんのアドバイスは、吉川ゲートでエーテル結晶の採掘をしつつ、慣れてきたら少し奥に存在する遺跡の探索をしてみてはどうか……というものでした。

 遺跡とはダンジョン内に存在する、異世界人が作ったと思われる建造物のことです。思われるというのは実際に遺跡を作った異世界人との遭遇が現時点でもないからです。白骨死体は見つかっていて、我々とかなり近しい生命体であるのは間違いなく、エクステンドプレートも彼らの生態を研究した過程で発見された技術とのことです。

 つまり異世界人とは我々探索者と同じくスキルが使えたり、高い身体能力を持っている可能性がある……ということなのですが、いまだに見つかっていないためにすでに滅亡しているか、ダンジョンの外に移動したのではないかと考えられているようですね。

 そして遺跡内ではかつて彼らが使用していたのであろう魔法具が時折発見されることがあり、戦闘や探索で使えるものはダンジョンタウンやオークションなどで購入することも可能です。

 当然のことながら発見された遺跡の調査は大体終わっていますし、その後も探索者が調べ尽くしてはいますが、私のように高所にも移動できる力があれば取りこぼしを得られる可能性もあるのでは……ということでした。

 ついでに魔獣の生息も確認できていないため、道中はともかく、内部の探索はそれなりに安全ではあるだろうのこと。

 ちなみにパーティを組むことについては別の理由で難しくなったかもしれない……とも言われています。

 表向きの同レベル帯でのマッチングは基本的に現在の私の公開データでは受け入れられる可能性は低く、またパーティが組めたとしても同レベル帯の他の探索者では実績を見た限りでは私の方が寄生される側になりかねないのだとか。

 確かにパーティを組んでも天井のエーテル水晶を採るのは私しかできないですし、他のメンバーどうするんだという話にはなりますね。

 |運び屋(ポーター)を雇うのも無理だそうです。収納スキル持ち同士は干渉しあうため、ひとつのパーティにふたりは入れられません。

 特に存在強度が高い収納スキル持ちの私のそばでは他の収納スキル持ちはスキルが発動できない可能性が高いとのことでした。ますます他のパーティに加わるのが難しいですね、私。

 ある程度の実績が積めれば、見合った実力のパーティの紹介もできるとの話なのでとりあえずパーティ関連は保留としました。最高の探索者を望む以上はパーティにも妥協はしたくありません。いずれ考えることといたしましょう。

 そんなわけで探索者協会埼玉支部の事務所に赴いた翌日、私は再び吉川ゲートからダンジョンへと入ったのです。


『それでは安全安心を旨に、素晴らしい探索者生活をお楽しみください』


「グルーーー」

「セイヤッ」


 早速遭遇したコボルトに空気弾を撃つと勢いよく吹っ飛んでいきました。

 放った距離は2メートル手前と言ったところですが十分に威力はありますね。

 口から血を吐いてますし、無事死んでいる模様。その後の魔石回収のための解体も手慣れたもの……というわけではなく、鉈を奮って頑張って抉り出します。まあ慣れないといけないのでしょうけど、この魔石千五百円なのですよね。倒して回収する手間を考えると見合った価格ではない気がします。回収用の道具もありますが、結構な力技のためにパワーのない私では扱えません。


「ウゥウーーー」

「ソイヤッ」


 続けてやってきたコボルトには水弾を撃ちましたがこっちも勢いよく吹っ飛びました。

 同じく2メートルくらい離れて撃ったのですが、倒れたコボルトを見ると撃たれた胸の辺りがボコってへこんでます。もちろん死んでますし、多分中の魔石も砕けてますね。これ。まあ千五百円なら諦めもつきますが水弾ではオーバーキルのようです。コボルトクラスなら空気弾で十分ということなのでしょう。




———————————




【次回予告】

 深淵へと続く断崖を乗り越え、善十郎は遺跡へと足を踏み入れた。

 そこは終わりに抗い、人の心を捨てた邪悪正義の末路。古の人の業が眠る禁忌の地。

 そして新たなる試練の幕が上がろうとしていた。

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