コボルトミンチ3

 私が探索者になったことで探索者協会から支給されたものがあります。それが小型端末『シーカーデバイス』です。これはカードサイズの端末で、インターネットを通じて探索者に必要な情報にアクセスできるだけではなく、探索者の免許でもあります。

 カメラやマイクも付いていて、ダンジョン内ではレコーダーとして使用し、位置座標なども逐次記録を取っているのと他のシーカーデバイスと近づいた場合にも接近記録が残るのでダンジョン内で揉め事があっても記録として残されるわけですね。

 ダンジョン内の公開エリアに設置されているシーカープローブと接続することで外と通信を繋ぐことも可能なのだとか。

 そしてこのシーカーデバイス内にインストールされている収納スキルマニュアルによれば、本来収納スキルのゲートは衝撃に弱く、ちょっと負荷がかかるだけでも崩れてしまうとの説明がありました。

 収納ゲートが崩れると中の収納空間自体が解除されて、中身が外にぶち撒けられることもあるんだとか。怖いですね。なので収納ゲートを開く際には収納ゲートを壊さぬように気をつける必要があるそうです。

 ただ私の収納ゲートは先ほどからいろいろと頑張ってはみたのですが、どれほど衝撃を与えてもビクともしません。ドロップキックをしても私の足首を痛めただけでした。湿布が沁みますね。

 これが存在強度が高い故……ということなのでしょうか。限度はあるでしょうが、足場や盾代わりに利用できるかもしれません。

 あと試せることといえば、収納ゲートを閉じるのではなく解除するということでしょうか。私の力ではどうあっても崩すことはできませんが、ダンジョン内の魔獣の攻撃は多分受け止め切れるものではないでしょう。

 そして収納空間が解除されると針の刺さった風船が破裂するように中のものがドバッと飛び出すのだそうです。

 そんなわけで試してみましょう。

 収納されていたものがそこらに撒き散らかされるというぐらいの感じだそうですが、実際に試してみないとどの程度のものなのか分かりませんからね。

 とはいえ、ここは室内です。飛び出したものが石とかだと危ないのでティッシュ一枚詰めておきました。まあこれで多少なり、どういう感じかは掴めるでしょう。それでは、せーの。


「収納解除」


 ズドーン!

 バリーン!

 バッキィ!


「は?」


 私が収納解除をしたら、凄い音がして、飛び出たティッシュがチリジリになり、窓ガラスが割れて、ベランダの柵が破壊されてしまいました。

 はて、これは一体どういうことでしょう。

 何かが出たのは分かりましたが……ふむ、もしかして今のって空気でしょうか。

 私が収納空間を作る際にイメージしたのは風船です。空気を入れて膨らますイメージだったのですが、それで取り込んだ空気を一気に射出したということなのではないでしょうか。

 いやはや、恐ろしいですね収納解除。これが武器になるなんてことはマニュアルには書いてありませんでしたが、これほどの勢いなのは存在強度の高さ故でしょうか。

 まあステータスが高ければこの程度の破壊力は拳ひとつで出せるのが探索者というものではありますが。

 とはいえです。ステータスとスキルがオールFの私にも少しだけ光明が見えた気がします。実際に試してみないとわかりませんが、もしかするとこれがあれば私も探索者としてやっていけるのではないでしょうか?


 あ。


 壊れた窓ガラスとベランダ……どうしましょう?




———————————




【次回予告】

 悲劇は起きた。男の仮初の家は深き傷を負った。怒り、咆哮する主の声を耳にしながら善十郎は力には代償を伴うのだと知った。

 だが、善十郎の歩みは止まらない。血に飢えたその男はついに異形住まう異界の地へと足を踏み出すのであった。

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