コボルトミンチ2

「残念ながら……ですか。これは厳しいですね」


 私は本日、二十歳辺りの娘さんに説得されてしまいました。


『正直に言いますが、探索者になるのは諦めた方が良いですよ。大貫さんの能力ではソロでというのはまず無理です。一緒に組んでくれるお仲間の予定はありますか?』

『いえ。残念ながら、そういう相手はおりませんね』


 いわゆるボッチという立場にございます。まあ、飲みにいく知り合いはおりますが、ダンジョンに頼らないモノヅクリをしていた会社に勤めていたのですから、そういう伝手も当然ありませんね。


『となるとパーティマッチングアプリなどを利用する方法もありますが、年齢的にもすでにハンデを背負っている上に大貫さんのステータスとスキルでは絶対にマッチングされません。というかですね。されたら高確率で詐欺ですので通報をお願いします』


 と……いう話でした。ふふ、マッチングもされませんか。確かにオールFで初心者のオジさんを拾ってくれるのは詐欺師くらいなものですか。

 けれども逆にこう考えてはどうでしょうか。パーティに入らないと追放はされないのだと。つまり私は追放回避に成功したということです。ふふふ、虚しいですね。


「ハァ、現実に目を向けないといけませんか」


 私が今いるのは上京してからずっと住んでいるマンションの自室です。まだ普通に貯金もありますので住み続けること自体は当面問題はありません。


「ゲートオープン」


 さて、たった今私の言葉と共に手の上に出現した直径8センチメートルほどの穴があります。これが収納スキルの入り口である収納ゲートです。ちなみにこの穴は発動した当人以外には見えないそうです。ゲートオープンと口に出す必要はありませんが、スキルというものは自分の任意で発動できてしまうものなので、単語と紐付けることを意識すると暴発を防ぎ、正確に発動しやすくなるんだとか。

 それと収納ゲートは普通はもっとモヤッとしているそうですが、私のゲートはカッチリと真円です。そのことを質問したところ、どうにもこれが原因で私はステータスまで弱い可能性があるというお話でした。なんでも受付のお嬢さん曰く……


『覚醒施術というのはですね。各個人に潜在的に存在するポテンシャルをポイント化して膂力、命中力、敏捷性、持久力、知力と、スキルの才能があればスキルに対してランダムで振り分けるものなんだそうです。スキルに振られたらスキルが発現するし、ステータスに振られたらステータスのランクが上がる。見たところ、大貫さんの場合は収納スキルに全振りされたみたいなんですね』

『つまり私のスキルは強いということですか?』

『いえ。今の説明で期待させてしまったのは申し訳なく思いますが、上昇するのは存在強度と呼ばれているものです。スキルによって効果が違って、通常は出力が上がったりするんですが収納スキルの効果は収納ゲートが硬くなって、収納力が固定されるだけらしいんですよ』

『つまりどういうことでしょう?』

『サイズが固定されるので、大貫さんの収納スキルはレベルが上がっても収納力がここから増えることはありません。ご愁傷様です』


 はぁーーーーーーーーー


 溜め息が出ますね。私が最高の探索者になるのはかなり難しいようです。最初の一歩が遠いです。

 しかし、この収納ゲートって本当に硬いですね。

 えいやっとフライパンで殴ったらフライパンの方がゴーンと鳴るだけで位置も変わりませんし、消えもしません。普通は衝撃を受けるとすぐに壊れるそうなのですが、変わらず空中で固定されたままです。うーん。ひょっとしてこれ『乗れます』?

 そう思って私は発生させた穴に乗ろうとしたですが、直径8センチメートルだとさすがに厳しいですね。

 というわけで玄関の中に入れてある自転車のサドルを持ってきて穴に指してみました。

 あ、上手く固定されています。うん。座れますね。これ。




———————————




【次回予告】

 手に入れたのは何ものをも通さぬ無敵の盾。それは天へと羽ばたく猛き翼。

 けれどもそれでは殺せぬ。ほろぼせぬ。故に善十郎が次に見せるは牙。彼が獰猛なる牙を見せた時、狩りが始まる。

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