収納おじさん(修羅) ~最弱の中年探索者は収納スキルでラスボス系能力『時間操作』に目覚めました~

紫炎

第一章 赤い悪魔編

コボルトミンチ1

新作です。初めての現代ダンジョンものです。

よろしくお願いします。本日は三話更新してます。

明日以降、第一章の間は一日二回更新の予定です。




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 君も最高の探索者を目指さないか?


 大学卒業後、仕事一辺倒で生きてきた私の目に職安の片隅に貼られていたそのポスターが映ったのは偶然でした。思えば私はこの歳になるまで一番を目指したことなどありません。最高なんてものを夢見たこともありませんでした。ほどほどの仕事と安定した生活に満足していた私は同期からも歳の割に枯れていると言われるような日々を過ごしていたのです。

 けれども会社が倒産し、やりたいことも、趣味もなく、生きる気力もなくしていた私の中に、そのキャッチフレーズはスッと溶け込むように入ってきたのです。であればと思ったのです。ここが新しい人生を歩むスタート地点だと。そして、その日から私の生涯の目標は『最高の探索者』となったのでした。


収納おじさん(修羅) ~最弱の中年探索者は収納スキルでラスボス系能力『時間操作』に目覚めました~


 ダンジョン。そう呼ばれる場所に繋がるゲートが世界の各地に出現してからすでに二十年以上が経ちました。

 日々増え続けるゲートからはダンジョンに生息する危険な猛獣が現れ続け、各国の軍隊はその対処に追いつかず、地上のいくつもの場所が奪われました。またダンジョン内の素材を求める声が多く上がったこともあり、異例の速度で法整備が進んで、民間によるダンジョンの探索の解放が決まったのです。

 そうして今では探索者と呼ばれる職業が台頭する時代となったのです。

 けれども新しい光があれば、そこに落ちる影があるというのが人の世の常というもの。私、大貫善十郎(三十五歳)は半年前に無職となってしまいました。私が勤めていたのはダンジョンに頼らぬモノヅクリをモットーに、いつまで続くか分からないダンジョンの恩恵を敢えて外すことで安定した商売を……という企業理念を掲げていた会社だったのでしたが、時代の波に飲まれた形で倒産し、私は企業戦士ではなくなってしまったのです。

 すでに世界はダンジョンを受け入れたということでしょう。時代にそぐわぬロートルは消えるもの。会社の理念に従ってダンジョンを仕事にも私事にも持ち込まぬ生活をしていた私がダンジョンに、そこを仕事の場にしている探索者の方々に憧れを抱き、次の就職先に決めたのもおかしいことではないでしょう。

 ともあれ、探索者になるための手段は決まっています。まずは国家認定の資格試験を合格してシーカーライセンスを得ることです。そして資格を得た後に待っているのはゲート先の世界に適合するための覚醒施術を受ける必要があります。これは改造人間の一種になるための施術ですね。

 かつては人間の体をいじるなんてとんでもないと非難されたものですが、ゲート前で人間の盾をやってる人たちが魔獣に美味しくいただかれる姿が生放送で流れて世論が自己責任論に流れたことで潮目が変わったようです。迷宮災害で子供を亡くした元社長はそうした流れを変えたかったようですが、結果として私は無職です。人は理想だけでは食べていけないのです。

 話を戻しましょう。覚醒した探索者は通常の人間よりも強力な力を手に入れ、また人によってはスキルと称される特殊な能力を得ることができます。もう三十も半ばのおじさんでも超人になることができる可能性があるわけですね。

 だからこそ私は思いました。社会の波に揉まれて十数年。その枷が解き放たれた今、私も冒険していいんじゃないかって。最高の探索者を目指してもいいんじゃないかって。

 こんなまだダンジョンのダの字も知らない素人が何を言っているのかと思うでしょう。私もそう思います。けれどもこんな年でチャレンジャーとなったのです。夢は大きくいきたいじゃないですか。そう私は今、ここに宣言します。私は最高の探索者になります!


「はい、結果が出ました。大貫さんが覚醒したのはランクFの収納スキルひとつですね」

「あ、はい」

「この収納スキルってのはね。探索者としては是非とも欲しいスキルの一つではあるのですけどね。ランクFだとペットボトル一本分、大体500ミリリットルぐらいの収納しかできないんですよ」

「ペットボトル一本分ですか。それは多分……少ないんですよね?」

「そうなんです。そうなんです。それでですね。さらに問題なのがこちらです。膂力、命中力、敏捷性、持久力、知力のすべてのステータスランクがFです。正直に言いまして、こんなの私も初めて見ましたよ。オールFって普通じゃありませんって」

「………………」

「聞いてます大貫さん?」

「はい。聞いてます。あの……これってよろしくないのでしょうか?」

「うーん。シーカーになった人ってね。レベルに合わせて身体能力が上昇してくんですよ。で、その倍率がランクで表されているわけ。でね。Fって1.01倍なの。まあ強化されてないわけじゃないんだけど、簡単に言うと成長しても一般人とほとんど変わらないんです」

「変わらない……一般人と」

「そうなんです。探索者生活を安定させるならスキルよりもステータスの方が重視されるのですが、これはもう、その、問題外としか」


 こうして探索者となった私は……


「やはり向いてませんか探索者?」

「はい。残念ながら」


 はじめの一歩で探索協会の受付嬢から戦力外通告を受けたのでした。





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【次回予告】

 新たなる世界へ踏み出した男の始まりは、赤銅色の鐘の鈍き音と共に始まった。

 けれども嘆くことなかれ。大貫善十郎。この男、菩薩の微笑みで悪鬼の所業を行う現代の修羅。静かに、けれども確実に善十郎は最初の一歩を踏み出した。

 そして彼は知るだろう。手に入れた己の力の片鱗を。

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