コボルトミンチ4
なんということでしょう。ベランダと窓ガラスの修繕費で貯金がほとんど吹っ飛びました。それと無職であることもバレて大家さんの心象も最悪で、さっさと引っ越せコールが待ったなしです。
これは早めに探索者として安定した収入を得られるように頑張らないと不味いですね。
そんなわけで私は探索者専門ショッピングモールであるダンジョンタウンで探索者ビギナーズキットを買ってきました。
セット内容は携帯可能な折り畳み槍に、刃物というよりはほぼ鈍器な鉈。防刃と対衝撃に優れたタイツのような薄型プロテクトスーツ。カッチリ体に固定されて戦闘の邪魔にならない上に防御力もあるバックパックと探索用便利グッズ等等……となっており、税込五十万円でした。
一見してお高いようですが、それぞれ個別で買うよりもかなりお得で、有名探索用品メーカーのミズモの商品ですので初期不良対応もバッチリです。
受付のお嬢さんにはダンジョン探索を止められましたが、私の基本方針はブレません。私は最高の探索者になります。この想いは譲れません。
けれども今、私が欲しいのは現金です。キャッシュです。お金だけが全てではありませんが、お金がなければ人は安心して生きていけません。懐の暖かさが寛容を産むのです。
準備は整えましたし、これでとりあえずダンジョンに挑んでみたいと思います。
もちろん危険なことをするつもりはありません。まあダンジョンなんてどこであっても危険はあり、油断をしてはいけませんが、私が今回挑むのは埼玉県の端にある、初心者御用達と言われている吉川ゲートです。
ちなみに迷宮ゲートは数多あれど、その先のダンジョンと呼ばれている場所は基本的に地球ではないどこかの地下洞窟内であるとされています。
ダンジョンには移動制限があるため、実際そこが地下であるのかすらも判明しておりませんし、少なくとも地上に出られた探索者はまだ公式にはいないようですね。
ともあれ、いよいよダンジョン突入です。吉川ゲートの周囲はゴッツイプレハブみたいな施設で覆われていて、こっそり中に入ったりはできないようになっています。
基本的にゲートというものはダンジョン内のどこかにあるゲートクリスタルを破壊することで閉じるそうですが、有益と判断されたゲートは残されて資源回収のための入り口として利用されています。この吉川ゲートも民間に解放されている資源ダンジョンのひとつということですね。
『シーカーデバイスの提示をお願いします』
「はい。これです」
『確認いたしました。ありがとうございます。入場の際に、シーカーデバイスのカメラをオンにしてください。録画された映像は探索者の権利と利益を守ります』
探索者は、ダンジョンに入る際には支給されたシーカーデバイスをボディカメラにして録画し続けることを義務付けられています。これによりダンジョン内での探索者同士の事故やトラブルなどが起きた際の判断材料として適用されますし、偽証不可能なプロテクトがかけられているので裁判の証拠としても有効なのだそうです。
一定距離まで接触した場合のログも残りますので、相手側のデバイスを破壊しても辿り着くことが可能です。
また帰還後に動画を提出することで自己判断AIが高速で解析し、ダンジョン内の情報を収集し、素材の査定や貢献度の追加、場合によっては情報料の支払いもあるわけです。そのための、ダンジョン内での犯罪発生件数は一部例外を除いてほぼ0。だから探索者は基本的にダンジョン内では犯罪を犯しませんし、むしろ地上の方がトラブルは多いのだとか。
徹底した監視体制により、地上よりもダンジョン内の方が治安が良いというのもおかしな話ですね。
『それでは安全安心を旨に、素晴らしい探索者生活をお楽しみください』
そしてクロスファイアの形で置かれた二台のガトリング砲台の付いた門を抜け、いざダンジョンに突入です。
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【次回予告】
そこは幻想の地。水晶の窟。善十郎はその地に牙を突き立てた。それは死への呼び水。命すらもチップにした危険な遊戯。
そして怒りの咆哮が彼の地に響き渡った。
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