第6話 特訓開始
「テメー。俺みてぇに強くなりてぇか?ヤツラをぶっ飛ばしてーんじゃねぇか?」
龍哉さんの言葉に僕は耳を疑った。何故なら、こんな僕のなんかの為に、そう言ってくれるからだった。僕は彼の好意を疑うこともせずに返事をする。
「はい!強くなりたいです!」
「いい返事じゃねーか。んじゃー今日から特訓開始っつーわけだからよ?3ヶ月くらい覚悟しておけや」
「き、今日から!?」
「強くなりてぇんじゃねーんかよ!?ヤられっぱなしでいーんか!?」
「わ、わかりましたっ!宜しくお願いします!」
その日から、龍哉さんとの特訓が始まる。先ずはランニングからだった…。といっても、僕が住む地域から自転車で50分くらいかかる場所まで自転車で向かう。龍哉さんは何処から手に入れたか分からないバイクに乗って一緒に隣街に向かう事になった。ちなみに、吹っ飛ばされた金髪はあの後、どこかの病院に運ばれたらしい。意識が回復してないんだとか…。龍哉さんの言葉だから分からないけど…。龍哉さんって一体何者なんだろうか?情報網もあれば、何故にバイクも入手出来ているんだろうか?それはまた後の話になる…。
………。
……。
…。
「おらっ!もっと早く走れやっ!」
「ひぃいいっ!!」
龍哉さんのスパルタな教育が始まっていく。1キロを6分で走ろというスパルタ教育だ。少しでも遅れれば、もう1週追加させられる事になる。ちなみに初日は2週追加させられた所で終了。
夜は龍哉さんが借りたというマンションの一室を借りてお世話になる事になった。
マンションオーナーの60才過ぎのおじさんは龍哉さんの事を何故か知っているらしく。
『まぁ、龍ちゃんのためなら』
と、直ぐに借りれた見たいだ。家賃はタダらしい。彼は一体何者なのか不思議で仕方なかった。
それから何日か経過して次第に体が段々と慣れ始めた頃。龍哉さんに『こっちにこい』と言われて向かった先は、コンクリート造の小さな部屋だった。
「次は、テメェの反射神経を鍛えてやるからよ。今からこの野球のボールを何発か投げるから交わせ」
「は!はい!(思ったより簡単かも?)」
龍哉さんは、野球のボールを力一杯僕を目掛けて投げてくる。僕はそれを簡単に回避する。しかし…。壁に跳ね返ったボールが僕の足に直撃する。
「いっつつ!!!」
「前ばかり気にしてねぇで、後ろも気にしろっ!!」
「は、はいっ!!」
それから1ヶ月がたった。毎日、朝から夕方までランニング1キロを5週。それが終われば、スクワット、背筋、腹筋、腕立て伏せ、階段の乗り降りを30週する。反射神経を鍛える運動も大分慣れてきた。
そんなある日、スマホからRINE電話があった。発信者は刈谷さんだった。
『もしもしー!ちょっと聞きたい事があって電話しました。今、どこにいますか?』
「もしもし。久しぶりです。何かありましたか?」
『あれからもずっと私の母親をさがしていたのですが、少し気になった事があって…』
(刈谷さんの探している人って母親だったんか…)
話を聞いたら、大体の北町とはどこか?との事だった。北町は僕が住んでいた場所だと答えると…。北町に刈谷さんの母親がいる事が分かったらしい。年齢は生きていれば58歳…。僕の母親と同じ歳だった。しかし、50代くらいの人が多い北町だったから、その地域から探すのは結構大変で骨が折れそうだと思った。
『…では、また何かあったら教えてください!』
「僕で良ければ!」
何十分か電話をして、また何かあれば聞きたいと言う事で、電話を終える。
それから数日後…。今日もまた、龍哉さんとのスパルタ練習が続く…。体力も大分ついてきて、体つきも引き締まってきた感じがした。何せ、ご飯が美味しく感じる。あんな不幸な事が沢山あったのに、練習の時は何故か忘れられる。
「今日からよー、俺と取っ組み合いだっ」
「む、無理ですよ!!」
そう言っている矢先、僕の顔に龍哉さんの拳が勢い良くぶつかる。
「い!いっつ!!」
鼻から暖かい液体がたらりと垂れ下がってくる。次第に赤い液体はポタポタと床に垂れ落ちていく…。
「グダグダ言ってる暇なんかねーぞっ!!うらぁああああっ!」
また龍哉さんの強烈なパンチが飛んでくる。でも今までの稽古のお陰か、すんなりと交わすことができる。
「いいじゃねーか。その調子で俺の右下の顎を狙ってパンチしてきやがれっ!」
「わかりましたっ!!」
僕は、交わしながら何度も何度も拳を打つ…。
………。
……。
…。
特訓開始から2ヶ月が経った。
「おー!いいじゃねぇか!!もっと!リキこめろやぁ!」
今は、龍哉さんとある程度組手をできるようにまでなってきた。自分でも驚いている。たったの2ヶ月で龍哉さんのある程度の技も受け流せるようになってきた。
「いいか~ぁ?何回も言っとくけどよ~?テメェを守れんのはテメェしかいねぇ…。顎は前に出すな。腹は常にリキんどけ。足は常に注意しろ。他は殴られようが気にすんな。モノもってんならよ?手首、脇腹狙ってけ…」
この2ヶ月で色々な事を龍哉さんが教えてくれた。四十九日に一回、祖母の家に帰り現状を報告した。その時、母親が亡くなった原因が一つ分かった。検視等の結果、キッチンから出火したらしい。母親が無理して料理でも作ってくれていたのかな…。でも、母親はもう還らない、悲しいけど、いつまでも後ろを振り返らないって決めた…。なら僕は前に進む。そして虐めから完全に離れてやる。
その日の夕方、俺のスマホに一通のRINEがきていた。刈谷真名からだった。
『いきなりすいません。お聞きしたい事があります。近日中に会ったりできますか?』
「うん。いいけど?」
特訓終了日も近いため、終了した日の夕方。北町で刈谷さんと会う約束をした。
そして3ヶ月の特訓終了のこの日…。
「うぉらっ!!」
龍哉さんの蹴りが僕を目掛けて飛んでくる。本気の蹴りだ。龍哉さんの蹴りやパンチを受け身で、ある程度受け流せるまでになったが、まだまだ特訓が必要…。
「やるようになったじゃん?弱音はかねぇでやれてんだから対したヤツっしょ!つか、今までお疲れ様だな。お前ならもう大丈夫だぜ?」
それでもある程度はついていけるようになっていた。それにしてもマンションの件といい食事の件といい、まるで提供してくれる人は龍哉さんの事を知っている見たいだけど、どうしてなんだろう?
「今まで、ありがとうございました。お陰で自信もつきました」
「何言ってんのよ?まだ終わりじゃねーべ?」
「へっ?」
「明日からガッコー戻るんだべ?まぁ、楽しみにしてろや!」
「はい!」
長いようであっという間だった特訓も終わり、僕は自転車で北町まで全速力で戻る。約20分くらい経ったかな?刈谷さんと会う約束をしている場所まで来てみたが、まだ刈谷さんは来ていない。その時だった。
「やめてくれませんか?訴えますが!」
「いいじゃん?ただ、遊ぼうって言ってるだけだろ?!」
「すぐやみつきになるよ~?」
向こうの方で声がした。刈谷さんの声に似ているから気になり、声のする方へ向かうと、刈谷さんが、明らかにナンパしているであろう二人組の男を見かける。二人とも似たような格好している。キャップを被り、たぼっとした服装だ。刈谷さんは僕の姿に気が付く。
「おい、嫌がってるだろ?離してやれよ」
「あっ… 新堂さん!」
「なに?コイツの男?」
「ただのガキじゃん」
僕は近づく。この二人を見ても何も思わなくなった。龍哉さんの方が怖く見えたからかもしれない。僕は刈谷さんの手を取り、その場から離れようとすると、赤色のキャップ男の一人が僕の服を掴んできた。
「おいおい!女の前だからって格好つけやがって!」
「俺達の邪魔すんじゃねーよ!」
僕は、カッとなり男の腕を掴み、即座に赤色のキャップ男の腕を背中に回して、太ももを強く蹴る。
「ぐっ!!なにしやが…」
男がしゃべる前に、僕は赤色のキャップ男の股関を蹴りあげる。しゃがみこんだと同時に赤色キャップ男の喉仏に蹴りを食らわす。
「ぐぇえっ…」
そのまま、前のめりで赤色キャップの男は痛みで悶えながら苦しんでいる。更に僕は、細男の方へ駆け込んで懐に飛び込む。慌てて身構えようとする細男だが、もう遅い…。僕は構えようとしている細男の腕の間接を肘で強く打ち付ける。そのまま、明後日の方向へと曲げる。曲げる瞬間に一気に力を入れると。ボキッ!と音がした。
「ぐぎゃあ!!いってぇええ!!」
「ゆっくり、寝てろよ。邪魔だよ」
僕は、細男の顎下部分に強烈なアッパーを食らわす。これも、当たる瞬間に、相手を吹き飛ばす感じで当てる。男は声もなく倒れこみ気絶する。呆然として見ている刈谷さんに、僕は…。
「大丈夫?怪我はない?」
「だ、大丈夫です!!新堂さんって凄く強いんですね!!ありがとうございました!」
「いや、まだまだだよ!それよりも本当に怪我無くて良かった」
僕達は場所を変えて、初めて会った公園にやって来た。二人並んでベンチに座る。
「そういえば、話って何?」
「えっと…、私の事じゃないのですが、気になって…」
刈谷さんは、スマホを見せてくる。そこには、男女5人が、僕の家が燃えているのを眺めている動画だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます