第5話 母親の死とリーゼント頭との再会
「な、なにこれ…」
僕の家が、黒い煙を出しながら、ごーごーと大きな音をたてながら、全体が燃えている。もう薄暗くなっているのにも関わらず、自分の家から出る炎で辺りがとても明るい。周りには救急車や消防車が来ていて、辺りを騒然とさせている。
「母さん!!なんでっ!?どうして!!」
「ちょっと危ないから下がって!!」
僕は、家に向かおうとすると警察の人に止められる。
「母さんが中に居るんです!行かしてください!!」
「危ないからっ!」
話ている間にも、家の中の内壁が崩れ、家を支えている梁が崩れ落ちている。
「母さんはっ!?母さんがっ!!」
僕が一生懸命に母親を呼ぶと、救急隊員の人が中から現れて、大量の毛布をかけられた何かが担架で運ばれてきた。僕は近寄ろうとするが、警察の人に危ないからと制止させられる。救急隊員の一人が僕の事に気付き、駆け足でこちらに向かってくる。
「僕の母さんは!?」
「ここの息子さん?!ここの家の中にいた人だから!緊急を要するから早く救急車に乗って!」
「はいっ!!」
僕は、救急隊員の指示を聞いて、救急車に乗り込め…。目の前には毛布でくるまれている何かが音も立てず動く事もなく、まるで置物のように置かれている何かがそこに置いてある。言葉すらもでない。それが母親だという実感もない。
………。
……。
…。
病院に到着して、待合室にいる僕。未だに担架で運ばれているのが、母親だという認識も出来ずにいた…。明日になればまた、母親が優しく声をかけてくれると思っていたからだ。
(なんで火が?!誰が火をつけた?!お母さんが何かあって火がついたのか?もし誰かが火を放ったなら誰が?まさか勝達か!?)
そんな事を待合室で待ちながら頭の中を真っ白にさせながら考え事をしていると…。
『チャラーン』
と、RINEの音が聞こえた。親戚か誰かだと思い直ぐ様、スマホを開く。スマホの送信者は百合だった。
『洋一無事だったー?火事みたいだって!?誰かが運ばれたって聞いたけど、もしかして洋一の母親?』
僕は、無視をする。そもそもこいつらが絡んでこなかったら、誰かが火を着けなかったのかもしれない。あの時、行かなければこんな事にならなかったのかもしれない。それでもしつこくRINEがくる。
『なんで無視すんの?私も洋一の母親にお世話なってたんだよ?!』
数分置きに百合からRINEが送信されてくる。どれもこれも「母親はどうなったの?」とだけの言葉がただRINEに並べられているだけ。
(しつこい。今はそれどころじゃない。お前さえ居なければ…。勝さえいなければ…)
待合室で暫くまっていると、病院の医師が出てくる。母親は…。
既に死亡。
ふつふつと怒りよりも、絶望や悲しみが僕を支配していく…。
………。
……。
…。
それから数ヶ月が経つ。あれから僕は母方の祖父母の家に引き取られる事になった。まだ、全焼した実家から近所だった事もあり、学校等は今まで通りだった。久々に僕は学校に向かう。今まで着ていた制服等は全焼してしまったが、学校側が全てを負担してくれた。
「…」
僕は無言で教室に入ると…。周りが物珍しいような顔でこちらに顔を向けてくる。
(こっち見るなよ…)
ただ、それは火事で母親を失い、同情する眼差しではない事がすぐ分かった。周りがヒソヒソと話をしてくる。
『あいつ、江頭にストーカーしていたんだって!』
『腹いせに自分の家に火をつけたんじゃない!?』
『同情してほしくて?うわーきもい』
色々な聞きたくない話が聞こえてくる。僕はパニックになる一歩手前まできていた。やがて…。
「皆、おはよー」
「はよー!百合!百合!ストーカー男来てるよ~!」
「うわっ!まじだ!キモ」
百合は冷たい冷徹な言葉を僕に向けて言ってくる。そして僕は。
「お前がっ!!お前が母さんを殺したんだろ!?ふざけるなよっ!」
僕の言葉に誰も庇護してくれる者は誰一人として居ない。むしろ…。
「八つ当たりとかやばくない?百合も何か言ってあげたら?!」
「いや、アンタがストーカーしなければ良かったんじゃない?!私がお風呂入ったりしている写真を撮って脅そうとしていたり、私の妹まで手をかけようとしていたんでしょ!?何を今更、被害者ぶってんの?!それに私が火を着けたとでも思ってるわけ?!フツーにキモいんだけど!」
「違う!そんな事なんて一切していないし!妹と暫く会ってない!」
「嘘を言うなよ!!」
「違う!!」
しかし、何を言っても周りからは、僕に対する批判的な言葉しか聞こえない。
『まじキモい』
『死ねばいいのに』
『うわー百合が可哀想…』
『ストーカーとかやば!』
そして…。
「ちーっす。百合いる? あ、居た…。何?ストーカー男に絡まれていたの?!」
堂々と入ってきたのは勝や、金髪、ハゲとリカだった。
「おい!ストーカー!早く消えろよ」
「本当にストーカーはしぶといなぁー」
等々、好き勝手言ってくれる…。僕は既に心が壊れてしまった…。もう。何もかもが嫌になった。僕は泣きながら、屋上へと上がる…。
この学校は3階建て…。屋上からこの下を見れば、地面には駐車場の縁石があった。もう、終わりにしよう。僕はそう思って、フェンスをよじ登る。人もいなくて、今ならここから…。靴を脱ぎ、体を前にする。肌に当たる風が僕の涙で濡れてしまった頬に突き刺さる。もう全て、楽になりたい…。そう決心して体を前にして風の流れにそって受け渡そうと…。
その時だった!!
「おい。何一人逝こうとしてやがんのよ?あぁっ!?」
僕は聞いた事がない…。いや、何処かで聞いたような、そんな声のする人に襟元を捕まれて、後ろに追いやられる。
「がはっ!! な、何するんですか!?」
「何もこうもねぇだろ?俺ん様の前で死のうとすんじゃねーよ!このダボがぁっ!」
「放っておいてくださいよ!!」
良く見れば、トイレで勝に殴れて気絶した時に夢の中で現れたリーゼント頭のヤンキーの人だった。
「…ったくよー。気になって見に来てみりゃーひでぇー有り様になってやがんよな?」
「…」
「苛められているって思っていたら、彼女は取られて?家が火事で全焼だって!?母親が殺されちまっただって?!今の時代の苛めってやべぇな!スンゲーやべぇだろうがよ」
「…」
リーゼント頭の人はだぼだぼした学ランのポケットに手を入れ、頭を横にしながら、眉や目を細めながら吊り上げて一人事のようにべらべらと喋っている。
「テメェ~よー。テメェ自身、テメェに腹立つ事はねぇんかよ?」
「ありますよ…。だから放っておいて」
「かぁああああっ!ンだよ。人が心配してやってんのによ!ぁあっ!?」
「何で無関係な貴方が僕なんかに心配を?」
やがて、彼の表情が優しい表情になる。すると。
「俺を出してくれただろ?理由はどうであれ、俺はまたこの現世に来れた。テメェのお陰でよ」
リーゼント男が喋っていると…。聞き覚えのある男が屋上にやってくる。
「いたいた!ここでベソかいてたの!?弱虫だねー」
「…」
「テメー…」
「誰?お前?なに?ねぇ?学ランなんかきてさ?どこ高?リーゼントとか今時古くない?!」
「テメーよー、俺んダチに文句あんのかよ?ああっ!」
「やるの?!どうせ格好だけなんだろ!?」
金髪は両手を使い、ボクシングみたいな素振りし始める。
「んじゃあテメーから、かかってこいや!」
「えっ!?いいのっ!?弱虫君の知り合いならどうせ対した事ないんだろ!?」
金髪はリーゼントに向かって駆け込んでくる。リーゼントの前にくるなり顔面目掛けてアッパーを繰り出す。しかし、リーゼントは…。
「おっせーおっせー… あーおっせー」
ひょいと軽々しく体を反らし…。
「ケンカっつーのはよー! こうするんじゃあっ!!このダボがああああっ!!」
リーゼントは金髪の襟元を掴むと、思いっきり頭突きを繰り出す。金髪の鼻から血が吹き出ると直ぐ様、髪を鷲掴みにして頭を勢い良く下に下げると、膝を曲げて、膝で金髪の顔にヒットさせた。
「ぶへっ…!!」
「まだ終わるわけじゃーねぇーべな?ああっ!ざけろや!!」
リーゼントはそのまま金髪の腹にストレートのパンチを一発お見舞いする。
「ぎゃはっ!! ちょっ!たんま!たんま!」
「っんだらぁあああっ!!終わってねぇってっつってんだろーがよ!!だぼがぁっ!!!」
リーゼントは数歩下がり勢い良く駆け込む。金髪の前まで来ると足で腹を蹴り上げると、金髪は勢い良く屋上から飛んでいく。
「ああっ!?」
「あー、やり過ぎちまった?ったく、今のガキってよえー癖に意気がってんよな?」
金髪は木にぶつかり、そのまま下へ下へと落ちていく。良く見れば、足や腕が明後日の方向に向いていた。
「あっ…ああ…」
僕はリーゼントに恐怖していた…。彼は多分、僕が知る中で一番やばい人だと認識したからだ。自殺したいという気持ちも消え、ただただ、ここから逃げたいと思う一心だった…しかし、リーゼントはそのまま向こうを向きながら。
「テメー、洋一って言ったよな?フルネームは?」
「は、はい!?」
「テメーのフルネームは何よ?」
僕の方を見るなり。この人には嘘はつけない…。そして…、何よりも怖いけどこの人と知り合いになりたいという気持ちもあった…。
「新堂…。新堂洋一…です」
「新堂か。いい名前じゃねーか。俺は朝倉龍哉だ。」
そして、僕の方を見るなり彼は…。
「テメー。俺みてぇに強くなりてぇか?ヤツラをぶっ飛ばしてーんじゃねぇか?」
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