転んでもただでは起きられない

澄瀬 凛

転んでもただでは起きられない

 幸いどの弾も急所は外れていて、テルは足をふらつかせながらも、撃った相手に一直線。しかも嗤いながら。その人とも思えない表情に相手が怯んでいる隙に寸前まで距離をつめ、自らを撃った拳銃を掴み、親指でその銃口を押さえた。


「下手くそ」

 息を荒く吐きながら、投げやりに。


「俺の息の根を止めたいんなら、一発で、ここを撃ち抜くんだよ」


 拳銃もろとも手を震わせ、相手は完全にテルの放つ殺気に呑まれていた。震える銃口がテルの力により、そのまま、テルの眉間へとぴたりと押しつけられる。

 相手の恐怖に支配された目を、テルは嗤いながら見返しつつ、低く、囁く。


「小心者が拳銃をおもちゃにしてんじゃねえよ。このド素人」

 相手に少しでも度胸があれば、ここで即引き金を引かれ、テルは殺られていた。だが完全にテルに対し怯えきっていたため、その震えた引き金が、引かれることはなかった。

 代わりに別の拳銃の引き金が引かれ、相手は即、絶命した。


「どうして、あんなリスキーなことしたんですか。もし弾が一発でも心臓とかに命中していたら」

「拳銃なんかをおもちゃみたいに下手くそに扱ってんのに苛ついただけだ」


 まさか、あれはわざとだったのか。

 相手に急所を外させつつ、というのか。

 まぁ人体の構造を現役の医者並みに熟知しているテルなら、不可能ではない気もするが。


 至近距離でないとはいえ、弾を数発くらってはいるので、テルの体は少しふらついていた。自らが撃ち抜いた相手の絶命を確認した輝が肩を貸してやろうと近づいたが、乱暴に突き放された。


「女以外に触られんのは死んでもごめんだ」

 まったくもうこの男は。まぁ今に始まったことではないのだが。

 深く大きく、テルに聞こえるようにため息をついた。


「そんな暇あったら、やることをとっととやれ」


 はいはい、わかってますよ。

 足元に転がる死体を回収する業者に連絡しつつ、再びのため息。


 そしてテルのあとを、彼のふらつく足取りに合わせ、ゆっくりと追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転んでもただでは起きられない 澄瀬 凛 @SumiseRin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説