人生

初心なグミ@最強カップル連載中

人生


僕の人生は良くも悪くも人並みではあったが、幸せそのものだった。

極一般的な、普通の両親のもとに生まれて、何不自由なく過ごし、仲の良い夫婦の元で健やかに成長した。

子供の頃の将来の夢は、守りたい人を守れる様な、カッコイイ英雄になること。

クリスマスに関しては、中学生の頃までサンタさんを信じていた。

社会人になり、そこそこの給料を貰い、職場の先輩と社内恋愛をし結婚をして、どちらかが先に逝く時は笑顔で、なんて約束もした。

結婚してからは、ごく普通の二階建ての一軒家を買い、夫婦で円満な生活を送っては、子供にも三人恵まれた。

三人の子供全員が成人したときは、妻に「少し寂しくなるね」と話しては、「貴方が傍に居てくれているわ」と、妻に諭された。

時が過ぎていくと、子供達も次々と結婚していき、その度に過去の感傷に浸っては夫婦揃って号泣した。

初めての子育てで悩んだこと、苦しんだこと。

それでも楽しく、幸せに満ち満ちていたこと。

孫が生まれてからは、正月に顔を出してはお年玉を強請る孫に癒されつつ、一年の節目を感じていた。

それからは時が過ぎ、孫も成人し、子供が生まれ、僕は病に伏していた。

僕は癌になったらしい。

その時は、言葉に出来ない程の絶望感に苛まれた。

癌という抗うことの出来ない相手に対して、僕は無力にも、妻を一人にして逝かないといけないからだ。

ベッドで寝ていると、周りから言葉が聴こえてきた。

それがどんな言葉なのかは、分からない。

しかし、その声が誰の声なのかは分かる。

分からない訳がなかった。

僕の人生の苦楽を共に歩んできたパートナーであり、僕が愛したたった一人の女の子。

僕は、鉛のように重く閉ざされた瞼を、不思議な引力で開けようにも開けられない瞼を、全ての力で、自分の出せる気力を出し切って、そっと開いた。

瞼を開けると、鼻水と涙でぐちゃぐちゃにした顔を、手で覆っている妻が隣にいた。

妻の口から溢れているのは嗚咽だった。

妻が泣いている。

僕は心から、妻には笑っていて欲しい。

だから、妻の名前を呼んだ。

「わ…ら……って、て。ーーーーさ、ん」

僕の瞼は徐々に閉じていき、瞳には光をうっすらとしか感じなくなっていた。

もはや、瞼を開けようとする気力すらない。

手足の感覚も、もはや全てがない。

でも、それでも、後悔はなかった。

だって、僕の瞳に最後に映ったのは

僕のしわくちゃな、朽ちた手を両手で包み込み

涙と鼻水で顔を濡らしながらも

今までで一番の笑顔をつくっている

世界で一番綺麗な、妻の姿だったのだから…。

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