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 さて、俺の最寄り駅から、自宅までの道の途中に、交差点がある。


 何の変哲もない、人通りが特段多くも少なくもない交差点。

 横断歩道が正方形を作り、その対角線にも横断歩道が引かれ、中心に小さな正方形のスペースがある、あんな感じの交差点だ。

 道の脇には、「今月の交通事故~件」とか標語とかが書かれている、ありがちな立て看板が置かれている。回数はゼロ。やけにはっきり強調したいらしく、赤と黒で何度もなぞったらしい「0」が、横並びで二つ書き込まれていた。

 これくらい中途半端な時間であっても、車や人がまばらには通る場所なのだが、激しめの雨だったせいなのか、それとも他の偶然が影響したか、その日その時刻、そこには俺以外に誰も居なかった。


 彼女の語りを聞きながら、俺はその交差点に向かって歩いていた。

 歩行者用信号機が点滅し、赤点灯に変わる。

 少し面倒だなと、そう思った事を憶えている。この信号は、車道を優遇するきらいがある。つまり、歩行者の番が回ってくるまで、少し長いのだ。

 別に急ぎの用があるわけでもないけれど、早く帰ってシャワーを浴びて、このぐしょぐしょの格好を何とかしてから、万全の状態でアーカイブの続きを見たい、そういうじれったさもあった。

 この信号を超えても、もう一つ信号機がある。

 5分以上掛かるかも。

 常だったら何てことのない秒数でも、その時の俺には途轍もなく長く感じた。考えただけで、体力が吸われていくくらいに。


 俺は決めた。「渡ろう」と。


 車は居ない。ライトも見えない。他に見ている人もいない。諸々を確認し、俺は対角線を横切り始めた。

 

『あ、もうお休みですか?「明日仕事」、なるほど~、お疲れ様です!』


 彼女がコメントを拾って返事をしている。その言葉を聞いた時、俺の胸はチクリと痛んだ。

 日々を自堕落に生きる俺なんかが、それを受け取って良い筈が無い。俺は逃げる為に、これを聞いているのに。

 その意識が、俺の視線を下に向けさせ、



『頑張って下さいね』



   キャー



 妙な音に釣られて顔を上げたら、そこに真っ赤な鳥居があった。

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